研究課題/領域番号 |
20K00402
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 康成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (10116056)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シェイクスピア / 歴史 / 救済史 / ミステリー・サイクル / ナショナリズム / 最後の審判 / 歴史的解釈 / 主体 |
研究実績の概要 |
「英国歴史劇」研究は、とくに第二次世界大戦に起因するナショナリズム的イデオロギーの影響において、その基礎を築いたという経緯をもつ。当時のナショナリズム的危機の克服を、過去の国民的劇作家の作品に見ようとし、国家の歴史と宇宙の秩序が調和をもつがごとき世界観を暗黙のうちに認めようとしたものである。この一見してナイーヴな分析はしかし驚くほど的を射たものであり、今日の「英国歴史劇」研究は、まずこの批判から出発しなければならない。戦後の研と究は、その反動にくわえて、実存主義あるいは構造主義・ポスト構造主義などの脱秩序、脱中心、脱連続、脱主体の前提に立つ歴史観を導入してきたと言える。 このような思潮にあって、「英国歴史劇」研究のおそらく最大の危機は、「作家・主体」の解体と「(大文字の)歴史」の消滅という(流行の)事態ということになるのかもしれない。「作家・主体」の解体は、もちろん解体の程度の問題であり、作品の解釈にあたってそれをどの程度に見積もって行うかが重要なのであり、しかもこれは解釈をする側とされる側の双方に相関する複雑な問題である。「(大文字の)歴史」の消滅については、彼我の相関の問題はさらに微妙となり、とくに彼我の差異が時間的ばかりでなく、我々のように異文化に関わるとなれば、一層明確化することが困難になる。この困難を克服しうる方法論的な装置は残念ながら存在しないが、少なくとも、このような歴史的解釈における重層的な複雑さを忘れないことが大事である。 そのうえで、「英国歴史劇」における「救済史観」の意義を洗い出す作業においては、「ミステリー・サイクル」の伝統の分析が有用であること、なかでも「最後の審判」のモチーフについては、種々の表現形態おけるヴァージョンの同定と分析(たとえばアレゴリー、タイポロジー、パロディー等)が役立つことが分かり、この方向で考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、「英国歴史劇」における基軸が「救済史観」であることを前提に考察を進めたが、その前提は崩れることなく、されに付随して新たな視野を開く問題が見えてきたため。
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今後の研究の推進方策 |
「英国歴史劇」において見られた中心的な問題をさらに明確化するとともに、もう一つの「歴史」的軸である「ローマ劇」へと展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、研究集会に出席できず、旅費支出がなかったため。
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