研究課題/領域番号 |
20K00403
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
金山 亮太 立命館大学, 文学部, 教授 (70224590)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アングロ・サクソニズム / ジャーナリズム / ゲルマン主義 / 優生学 |
研究実績の概要 |
2020年度は、ここ数年来の懸案だった英語論文集の1章を担当し、出版に漕ぎつけることができた。これは19世紀の作家チャールズ・ディケンズの全作品を対象とした研究書で、担当した章ではこの作家の初期の作品に見られるイギリス社会の価値観の転換を扱った。 科研費をもとにした過去20年間の取り組みの結果、この度到達した科研費のテーマが「アングロ・サクソニズムの生成」である。今回の論文では、19世紀初期のイギリスの世相変化をディケンズが鋭く感知した結果、当該作品の一登場人物の労働倫理観の中にプロテスタント的な禁欲性を肯定的に捉えようとする発想の萌芽が見られることを指摘した。また、1859年に刊行されたサミュエル・スマイルズの『セルフ=ヘルプ』に代表的にみられるような近代資本主義を支える価値観が肯定的に描かれた最も早い例として、この作品を再評価すべきであるという主張を行った。この作品発表後、19世紀半ばまでに達成された大英帝国の隆盛を背景にして、イギリス独自の民族的アイデンティティが再構築されるようになるまでは指呼の間である。この論文は従来この作品に対して行われてきた代表的解釈に対して大胆な修正を施そうとするものであり、既に2人の研究者によって言及されたり、引用されたりしているのを確認している。また、この研究書自体が国内最大の学会が発行する学会誌の書評対象となることも決定しており、今後の反響が待たれる。 この論文は前回までのアングロ・サクソニズム研究の延長上にあるものであるが、今回のテーマにも接続できることを確認できたのが収穫と呼べるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新規採択された課題の1年目であったにもかかわらず、好調なスタートダッシュを切ったとは言い難い1年だった。新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、研究活動(研究室や図書館書庫の使用)が制限されたほか、学会のオンライン化などもあり、予定していた国内出張はすべてキャンセルとなった。このように、研究を進めるための情報交換の場が十分に活用できなかったことは残念である。 2020年度の下半期になってようやく対面授業が再開し、科研費を用いて基礎資料の購入などはできたものの、それを一部の授業で活用できた程度であり、研究そのものに反映させることはできなかった。ただし、1年目に購入を予定していた資料は一部を除き入手済みである。新型コロナは出版業界にも大きな影響を及ぼしており、刊行予定の書籍の発売延期や中止が起こっており、入手予定だった基礎資料のうちの一つについては購入計画が宙に浮いたままになっている。この件については2021年度に新たな進展があることを期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も上半期においては研究活動も学会活動も制限を受けざるを得ない状況が続くと思われるが、下半期以降は徐々に研究活動が可能になることが期待される。今年度は中止に追い込まれた学内の学会も次年度は対面型かオンライン型かの形態は別にして実施そのものは決定しており、学会誌の刊行も予定されている。このように次年度には発表の場が複数確保できそうな見込みであることから、いずれかの媒体において論文発表ができるように準備したい。 また、次年度に予定していた学会発表は、本年度の進行状況が不良であることから、2022年度に延期することとする。然るべき成果が出て初めて世に問うだけの報告ができるとの考えから、敢えてスケジュールに固執することなく柔軟に対応していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、一部の購入予定書籍の出版が延期あるいは中止となったことにより、予定していた購入計画通りに資料を揃えることができなかったため。2021年度に上記の図書が刊行されるかどうかは、出版社がアメリカおよびイギリスであるために見通しが立たない部分がある。今後の動向を注視し、もしも入手の見込みが立たない場合には、近い領域の類似した資料を購入する費用に充てることを考えたい。
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