本研究では“Claimant Narratives”の語りの特性とアメリカ文学史での位置づけを見出すべく、19世紀の作品を中心に文学ジャンルを横断する形で、作品が内包する英米両方向からの「家系」および「所有」の問題を確認する。その上で、イギリスの伝統的な貴族制とアメリカ国家の民主主義の理想と現実が、イギリスの土地空間が絡んだ19世紀の物語を媒介としていかに描出されていたかについて明らかにすることを目的としている。 令和5年度は統括の年とし、これまで分析した爵位権相続にまつわる作品についての研究をまとめた。一つ目はフランシス・ホジソン・バーネットの『小公子』(1886)および『秘密の花園』(1911)である。作中における登場人物の空間移動と、英米をまたぐ遺産相続申し立てのプロットの特性についてまとめた。本研究に関する論文を執筆中である。 二つ目は、ナサニエル・ホーソーンの初期作品から晩年の作品までに言及された「イギリスの荘園/屋敷」および空間所有の概念が、作中に描かれた「埋葬」の行為、および過去と土地不動産をめぐる問題に深く関わっていることを見出した。研究結果はナサニエル・ホーソーンの共著本に出版した。また作品のモデルとなった屋敷に残る資料を確認するため、イギリスのボルトンへリサーチに赴いた。 三つ目はマーク・トゥェインの『アメリカの爵位権主張者』(1892)に関する分析である。令和5年度に国内で行った口頭発表の内容をさらに発展させ、アメリカで開催された国際学会で口頭発表を行った。南北戦争を境界として本テーマの扱いがどのように変化したかについて分析をした上で、爵位権と土地空間の相続という世代を超えた実空間の問題が、現代のAIビジネスによる「過去の知識の再利用」というテクノロジーを用いた仮想空間に接続されていることを見出した。本研究論文は、今年度中に刊行される予定である。
|