令和5年度における研究では、令和2・3・4年度に実施することのかなわなかったアメリカ合衆国における調査・資料収集を実施した。とくに令和5年8月に実施したニューヨーク州ニューヨーク市のザ・モーガン・ライブラリー・アンド・ミュージアムでの調査では、これまで活字で公表されたことのないJ.D.サリンジャーの書いた大戦前からの多くの手紙を調査することが出来た。ただし、サリンジャーの私信にはコピーライトの問題があり、サリンジャーの著作権を管理している代理人との調整がなければ、研究目的であろうとも引用して公表することは許されていない。モーガン・ライブラリーにおいて代理人の氏名と連絡先も入手しているので、どの程度のパラフレーズなら許されるのか調整しながら研究を進めていくことになるであろう。したがって、ここでその内容についてふれることは出来ないが、少なくとも、サリンジャーが生涯にわたって手紙の公表を許してこなかった理由を推察することが出来る内容が書かれており、少なくなくともその観点から、サリンジャー作品をあらたに読み直すことで本研究を進展させる可能性があらたに拓けたとは言える。 また令和4年度の日本アメリカ文学会北海道支部大会(12月17日札幌市立大学サテライト・キャンパス)において、令和3年度に刊行した『謎ときサリンジャー』の共著者でサリンジャー研究者の朴舜起氏ならびに現代アメリカ文学を専門とする北海学園大学名誉教授本城誠二氏とともに同書をテーマにサリンジャー研究に関する対談を行った際に得た着想、すなわち、サリンジャーが受けた文学的影響を、仏教思想への関心を共有する19世紀初頭の超絶主義者たちの思想まで遡って考察する展望を、本年度はさらに深めることが出来た。
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