研究課題/領域番号 |
20K00409
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 和欣 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50348380)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 共感 / 思想史 / ユニタリアン / フィランスロピー / コスモポリタニズム / チャリティ / ヴィクトリア朝 / ロマン主義 |
研究実績の概要 |
18世紀において「共感」の概念の啓蒙思想における位置づけを、消費や経済との関係のなかで解きほぐしていった。社会思想史としての「共感」の根源的な位置づけについては最重要な課題として4年間通して継続する。その一方で重要な一次資料については1790年代の急進主義者、とりわけユニタリアン派の人びとの掲げた「普遍的仁愛」が、18世紀的な感受性文化において胚胎された「共感」とどう差異化され、近代的な美徳として定義されたかを精査し、19世紀のユニタリアンたちに継承されていった過程をたどった。カントが提示してみせた「コスモポリタニズム」を構築する美徳に類似するが、実際はAdam Smithの言う「公平無私な傍観者」と同じ、ゆえに彼が後の『国富論』で展開する自由経済思想に繋がる概念である一方で、19世紀福音主義の影響を色濃く受けた情念としての側面も持っている。急進主義者と親交があったWordsworthやColeridge、Southeyらの初期政治論や詩のなかにも「共感」は重要な美徳として称揚されるが、革命の理念と通底しているように見えながら、ユニタリアン派や自由経済思想の共感とも異なるものとして概念化されている可能性がある。 一次資料については、新型コロナウィルス感染拡大のため、渡航調査ができず、新しい資料の発掘・閲覧ができなかった、
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料読解を行いながら、論文執筆を進めている。学会での招待講演でその一部は提示し、フィードバックをえた。 一次資料については既に調査を終えたものを中心に研究を進めた。新型コロナウィルス感染拡大のため、渡航調査ができず、新しい資料の発掘・閲覧ができなかった、来年度以降、渡航の機会を得て、まとめて調査する予定である。2年目には論文として完成予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年遂行した18世紀的な「共感」の位置づけを、哲学領域から文学領域に調査対象を移して継続する。SterneやMakenzieの小説、Goldsmithの小説と詩を中心とした文学テクスト、さらには救貧法に関わる議論と同時代の感受性小説の中に、貧困という痛みや抑圧に共同体の亀裂を読み込み、「共感」がどういう形で人間間、あるいは社会内で機能すると捉えられているのかを検証する。その一方で、すでに別プロジェクトで分析した奴隷貿易廃止運動に関わる女性詩を再読しながら、女性たちが抑圧的隷属状況にある奴隷たちへの「共感」を詩の中で言語化し、公共圏において発言する言語態を精査する。彼女たちの「共感」は公共圏から排除された自分たち自身の不満の反映として理解すべきものでもあるが、男性の反奴隷貿易言説が包摂する「共感」はその問題を共有しているのか、また彼らの「共感」はどこまで植民地主義を批判する政治的な力を持ったものと言えるのかを吟味し、奴隷貿易廃止運動における「共感」の言語の位相を辿る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大のため、渡航調査および国内学会出席ができなかったため。渡航調査については来年度以降、加納な状況になったところでまとめて行う計画である。
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