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2021 年度 実施状況報告書

「共感」の言説と文学ー社会思想史的文学研究の可能性を探る

研究課題

研究課題/領域番号 20K00409
研究機関東京大学

研究代表者

大石 和欣  東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50348380)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード共感 / 文学 / イギリス哲学 / イギリス18世紀文学 / チャリティ / 奴隷貿易 / 植民地主義 / ユニタリアン
研究実績の概要

本年は前年度未遂行のままであった18世紀イギリスにおける共感の哲学的考察を継続しつつ、新たなに18世紀末からの文学における共感のあり方について検証を開始した。SterneやMakenzieの小説、Goldsmithの小説と詩を中心とした文学テクスト、さらには救貧法に関わる議論と同時代の感受性小説の中に、貧困という痛みや抑圧に共同体の亀裂を読み込み、「共感」がどういう形で人間間、あるいは社会内で機能すると捉えられているのかを検証した。その一方で、すでに別プロジェクトで分析した奴隷貿易廃止運動に関わる女性詩を再読しながら、女性たちが抑圧的隷属状況にある奴隷たちへの「共感」を詩の中で言語化し、公共圏において発言する言語態を精査した。同時にユニタリアンを中心とするいわゆる「理性的非国教徒」において、共感が奴隷貿易反対の礎になっていると同時に、その理由として自由で人道的な海外貿易こそがより大きな公益、人類全体に対する利益を確保する手段であり、その根底に本来あるべき共感、彼らが言う「普遍的仁愛」があるという考え方が横たわっていることを証明した。女性たちの「共感」は公共圏から排除された自分たち自身の不満の反映として理解すべきものでもあるが、理性的非国教徒の反奴隷貿易言説が包摂する「共感」はその問題を共有しつつも、植民地主義および植民地との交易における人種差別的な構造を批判する政治的な力を持ちつつも、必ずしも植民地主義そのものを転覆させることは意図していないものであった。前年度に遂行した研究のうちウィリアム・クーパーに関わる論考は共著書に所収されてエディンバラ大学出版局から10月に出版され、それに関わる校正を年度初頭に行った。また奴隷貿易と共感については3月末に刊行された国内共著書に所収された論分のなかでまとめた。コウルリッジと共感・博愛の問題については学会発表を行なった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度に遂行すべき事項については完了し、昨年度のものと合わせて論文としてとりまとめることができた。海外調査ができない環境のなかで資料収集は難航したが、十分な調査は行うことができた。

今後の研究の推進方策

海外での資料調査ができないままであるが、資料収集にあたってはインターネットにおけるデータベースなどを活用しつつ、可能であれば本研究遂行期間内にまとめて執り行う必要がある。また、校務負担や育児など私的な理由で研究時間を削らざるをえない環境ではあるが、研究・調査の効率化を通した成果の確保と可視化を目指す。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルスが依然として蔓延している状況のため、計画していた海外調査を見合わせた。結果として海外調査旅費として計上していた費用分を繰越す必要が生じた。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] 以技伝心」――身体という言葉と言語の壁2021

    • 著者名/発表者名
      大石和欣
    • 雑誌名

      月刊武道

      巻: 655 ページ: 24-30

  • [雑誌論文] 伝統の継承と刷新2021

    • 著者名/発表者名
      大石和欣
    • 雑誌名

      月刊武道

      巻: 654 ページ: 24-30

  • [雑誌論文] 武将の「力」を考える2021

    • 著者名/発表者名
      大石和欣
    • 雑誌名

      月刊武道

      巻: 659 ページ: 32-37

  • [学会発表] ロマン主義的政治思想? -ベンサム、マルサス、コウルリッジ2022

    • 著者名/発表者名
      大石和欣
    • 学会等名
      イギリス哲学会全国大会
    • 招待講演
  • [学会発表] (コメント)「感情の共同体」の多層性と流動性2021

    • 著者名/発表者名
      大石和欣
    • 学会等名
      イギリス女性史学会 ワークショップ
  • [図書] 地球的思考――グローバル・スタディーズの課題[「奴隷貿易とその廃止運動を再考する――チャリティと共感の観念史を通して」]2022

    • 著者名/発表者名
      國分功一郎・清水光明(大石和欣)
    • 総ページ数
      429 (45-78)
    • 出版者
      水声社
  • [図書] Romantic Environmental Sensibility: Nature, Class and Empire ['William Cowper and Suburban Environmental Aesthetics']2021

    • 著者名/発表者名
      Tee Ve-Yin (Kaz Oishi)
    • 総ページ数
      304 (141-156)
    • 出版者
      Edinburgh University Press
    • ISBN
      9781474456470

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公開日: 2022-12-28  

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