2022年度には特に「階級」と「言葉」の関係に焦点を当て、発音、語彙、表現法などの、階級との関係のステレオタイプを、イギリスの小説、演劇、エッセー、そして映像作品、そしてそれに関する二次資料を分析することによって考察した。その成果を単行本『英語の階級――執事は「上流の英語」を話すのか?』(講談社)にまとめた。コロナウィルスの影響で予定していた、ロンドンのBritish Libraryにおける資料収集はこの年度においても実現できず、ILL(図書館間相互貸借)やデジタル・アーカイブを利用して資料を収集した。さらに、オンラインおよび対面(国内)で 実施された学会や研究会で情報交換、 資料収集を行った。 本研究は英国の文学、文化における「ロウワー・ミドル・クラス」のイメージの表象を十九世紀から現代までたどり、「ロウワー・ミドル・クラス」のコン セプトがいかにアッパー・クラスおよびアッパー・ミドル・クラスを脅かし、数々の風刺、揶揄、批判を生み出してきたかを考察し、「ロウワー・ミドル・クラ ス」のイメージとステレオタイプの形成を明らかにした。さらに、それが現在の英国の文学と文化にどのような影響を与えているかを分析した。現在の英国はロウワー・ミドル・クラスがそれまでの文化的、社会的周縁の位置から移動しつつある。しかし依然として文学的、文化的ステレオタイプの影響は大きく、「ロウワー・ミドル・クラス」表象に見られる様々な変化や矛盾点を理解するのは、イギリスの文化、文学を理解するためにきわめて重要な要素だと思われる。
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