研究課題/領域番号 |
20K00417
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
三原 穂 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (60593936)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シェイクスピア / バラッド / 劇中歌 / 学術編集 / 歴史的批評 / 『ダグラス』 |
研究実績の概要 |
研究三年度の令和4年度においては、デイビッド・ギャリックを中心とする18世紀のシェイクスピアをめぐるページとステージというテーマ(第一テーマ)を継承しつつ、あらたにスコットランド啓蒙とシェイクスピアというテーマ(第二テーマ)を設定して、研究計画調書で示された研究目的の達成を試みた。第一テーマに関しては次のような結論に至った。18世紀のシェイクスピア編集者たちはテクストに示された劇中歌を、シェイクスピアの意図とは無関係な非シェイクスピア的なものとしてではなく、自由に取り外すことが可能なものとしてでもなく、シェイクスピアが実際に見た、聞いた、歌った、使ったあるいはつくったものとして、シェイクスピア本人と強く関わるものとして、提示しようと試みた。つまり、編集者たちはシェイクスピアのテクストから劇中歌を切り離そうとするよりは、慎重になるべく歴史的文脈に即して、綿密な文献調査を通じて、そして他作品との表現の類似性から得られる内的証拠に基づいて、シェイクスピア(のテクスト)と劇中歌との結びつきを解き明かそうと努力したのである。第二テーマに関しては、スコットランド啓蒙の一端を担う劇作家ジョン・ヒュームによる悲劇『ダグラス』の翻訳を令和4年の11月に上梓させた。この悲劇はギャリックに上演を拒絶されたが、1756年にエディンバラで初演され大成功を収めた。その翻訳の過程で、ギャリックが企画し1769年に挙行したシェイクスピア・ジュビリー祭と『ダグラス』とが結びつく可能性を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度までは、新型コロナウィルス感染拡大により、海外渡航が不可能であったが、令和4年度からは、海外渡航が徐々にしやすい状況となり、必要資料を海外の研究機関において閲覧することがようやく可能となったため、研究を少し前進させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ギャリックは役者であると同時に、膨大な学術資料を所有していたため当時のシェイクスピア編集者たち、特にジョージ・スティーヴンズに頼られる存在であり、『古英詩拾遺集』の編集者トマス・パーシーもギャリックとの交流を通して、彼からシェイクスピアの劇中歌に関する古資料を借り出して『拾遺集』にて印刷した。このようにパーシーはギャリックの古資料を印刷して、シェイクスピア編集者をひきつけ、結果として『拾遺集』編纂を通じて、シェイクスピア編集者との交流によって形成された学術ネットワークを広げて、シェイクスピアの劇中歌とシェイクスピアへの理解を深めていったと推定される。この推定が正しいかどうか、今後検証していていきたい。これにより、研究四年度には、研究計画調書において示した研究目的2の「ギャリックを加えた学術ネットワーク」の研究を推進できるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行により、2020年4月から2022年12月まで、海外出張が困難な状況にあり、海外研究機関における資料収集が重要となる本研究課題の遂行を実現するためには、補助事業期間を延長する必要が生じた。次年度使用額については、2回の米国出張(2023年9月と2024年3月)と2回の英国出張(2023年8月と2024年2月)を計画しているので、使い切ることができるはずである。
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