研究課題/領域番号 |
20K00430
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
谷川 冬二 甲南女子大学, 国際学部, 教授 (50163621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アイルランド文芸復興 / Foras feasa ar Eirinn / Sean-Ghall / Nua-Ghall / drawing room / バラッド / 南北戦争 / cigar box fiddle |
研究実績の概要 |
2020年夏、ポーランドで開催が予定されていた国際アイルランド文学協会の年次大会がキャンセルされ、予定していた口頭発表が出来なくなった。研究課題の答えとして予期しているもの(アイルランドの文化的多様性の認容)のエピローグにあたる、シェイマス・ヒーニー論を展開するはずであったが、別の機会に持ち越さざるをえなくなった。 他方、所属し理事を務める日本アイルランド協会主催の公開講座として「アイルランドの旅する音楽―その歴史と魅力―」を共同企画し、その第2回「アメリカ南北戦争とアイルランド音楽」を担当した。一般向けの講座にしつらえはしたが、その根底には、当研究の主題であるアイルランド文芸復興の同時代に、アイルランドとは大西洋を隔てた北アメリカ大陸において、文芸復興と密接な関係を持つ事象がある。それは、大飢饉以降止むことなく北アメリカへ流れるアイルランド移民にとって、南北戦争がアイルランド系アメリカ人という新たな氏族(クラン)として生まれ変わるための祭礼となり、バラッドがそのテキストになった、ということである。 この主旨は、これまでの基盤研究で扱ってきたForas feasa ar Eirinnの読解や現在わが国にまで広まった聖パトリック祭の歴史と組み合わせることにより、アイルランド文芸復興が包含するモラル対フィジカルという対立項に新たな視座を与えうることがほぼ確実であり、新型コロナ禍のなか多くが停滞する中で、(成文化を果たしていないものの)望外の成果となった。 また、これまで口頭発表を重ねてきたdrawing roomが北アメリカ南部の邸宅にも継承されていることがわかり、それが単なる客間ではないことがますます明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論考の発表の場が失われたことが一因である。 しかし、最大の理由は、新型コロナ禍に際し、勤務校においてそれへの対応に追われて時間と体力が大幅に削がれてしまったことである。公開講座用とはいえ、原稿をひとつまとめえたのは奇跡だった。
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今後の研究の推進方策 |
Foras feasa ar Eirinnの研究にあたって定本を取り上げるのが常であるが、当研究課題の推進にはJohn Francis O'Mahony版の読解が必須である。彼が、ゲール語学者であると同時に、南北戦争に先立ち、アイルランド移民による民兵組織を指導した人物であったからである。Foras feasa ar Eirinnを出来事の連鎖を描いた書物ではなく、何らかの精神を表現した書物としてとらえそれを抽出する必要がある。それを果たして、19世紀にアメリカ大陸で生まれた新たなアイルランド氏族の精神上の核を見出したい。 聖パトリック祭については、南北戦争時の形をより詳しく確認したい。Edwin Forbesら従軍画家たちの記録がアメリカ国会図書館にあるが、それらかせ有力な資料となる。 アイルランド文芸復興のレガシーを受け継いだ者としてシェイマス・ヒーニーを捉え、彼がそれを時代に合わせて拡充していった経過も詳らかにしたい。具体的には、俳諧に対する彼の関心の質を取り上げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポーランド共和国、ウッチ大学(University of Lodz, Poland)にて2020年7月20日から24日にわたり開催される予定であった国際アイルランド文学協会年次大会「創造的な境界」(IASIL 2020: "Creative Borders")が、世界的な新型コロナウィルス蔓延のため中止のやむなきに至ったので、支出予定であった旅費が使えなくなったことが理由である。 転じて物品購入などに使用することを望まないので、旅費分がそのまま残ることになった。 今年度末までにヨーロッパ、もしくは北アメリカへの自由な渡航が可能になっていれば、学会参加もしくは資料収集のために、やはり旅費として使いたいと切に願っている。
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