研究課題/領域番号 |
20K00432
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
壬生 正博 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (30249784)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中世イギリス文学 / 異界 / パラダイス / タンダール / マンデヴィル / ダンテ / 夢幻視 / 聖書 |
研究実績の概要 |
本研究は、中世西欧の夢幻視物語(Dream-Visions)が語る異界(The Other World)――主として地上や天のパラダイス――に焦点をあて、当時の文芸作品や視覚芸術に見られるパラダイス描写の深層意識の究明を目的としたものである。種々の夢幻視物語から本研究では特に『タンダールの幻視物語』(The Vision of Tundale)を中心に研究を実施している。 平成5年度は、以下の研究等を行った― 1)平成4年度に引き続いて、カリフォルニア州ロサンゼルスにあるJ. ポール・ゲティ美術館が所蔵する古フランス語訳の写本 Ms. 30(15世紀)およびそのラテン語原典Visio Tnugdali(12世紀)との比較を行った。主に比較対象としたのは、The Visions of Tondal from the Library of Margaret of York (The J. Paul Getty Museum: Malib, California, 1990)が詳細に指摘している相違点(加筆、省略、誤訳など)である。そして細密画家Simon Marmionがこれらの相違点をどのように可視化したかを探求した。 2)上記の相違点を15世紀に中英語に翻訳された版 MS Cotton Caligula A.II(British Libray所蔵)およびJac. V. 7, 27(Advocates' Library所蔵)の記述と比較検討を行った。更に、ユダヤ・キリスト教の黙示文書、ダンテの『神曲』(14世紀)、更に13世紀頃に作成された世界地図(mappa mundi)等との通時的かつ共時的な観点からの複合的研究も継続して行った。 3)R4年度に研究経過発表として「パラダイス思想の観点からみる『第4エズラ書」の夢幻視について」を口頭発表した。そして、R5年度は、先の発表原稿を推敲して総合文化学会の論輯(第20号)に投稿し掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・R2年度から3年度にかけてコロナウイルス国内蔓延のため国内図書館に赴くことができず調査研究がはかどらなかった事や、R5年度は、勤務校の業務が大幅に増加したため、研究資料を整理する段階まで進めることができたが、具体的に比較検討する時間を十分に確保できなかった。 ・上記の理由から、補助事業期間の延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、ラテン語原典Visio Tnugdali(12世紀)、フランス語訳版Ms. 30(15世紀)とMarmionの細密画、および中英語翻訳(15世紀)の3作品のパラダイス描写の比較検討を行い、中世イギリスの夢幻視文学のパラダイス描写の深層心理を探究する予定である。本年度は特に以下の点を考察する。主人公タンダールに、もともと信仰心などなく非人情な人物で貪欲な高利貸しであった。従って、彼は地獄墜ちするにふさわしい人物であった。しかし、地獄にいる魂たちの悲惨な状況を目撃し、時には自ら地獄の苦しみを体験するに伴い、案内役の天使や神に慈悲を請うことで彼の心は次第にパラダイスに向かうにふさわしい心境へと変化・成長していく。この変化の過程には、神の慈悲(mercy)、恩寵(grace)、愛(love)などが重要なテーマとなっている。これらはいかにもキリスト教的な設定ではあるが、Ms. 30に描かれた図像との関わりを考察していきたい。換言すれば、Ms. 30の細密画家Marmionが、神の慈悲、恩寵、愛などのテーマとタンダールの心理の変化とを捉えながら、細密画を描いたのかどうか今後の考察の中心としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
R5年度は、勤務校の業務が大幅に増えたため、研究資料を具体的に比較検討する時間を十分に確保できなかったので、補助事業期間の延長を申請し、次年度に向けて研究推進の準備を進めている。
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