研究課題/領域番号 |
20K00441
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
竹内 勝徳 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (40253918)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハーマン・メルヴィル / 『クラレル』 / ミレニアリズム / シオニズム |
研究実績の概要 |
本年度はまず5月の日本英文学会第93回大会において、「Labor Diaspora/ Labor Mobility--- アメリカ文学における移動と労働」と題したシンポジウムを実施し、司会と講師をつとめた。シンポジウムの趣旨としては、現代のグローバリゼーションにおけるディアスポラ的労働の発生源として19世紀以来の帝国主義や植民地主義に注目すると同時に、アメリカ国内における経済状況と労働者たちの関係について考え、両者の結びつきから現代のグローバリゼーションを批判的に眺める新たな視座を提供するということであった。帝国主義の動きと共犯関係にもなりうるメルヴィル、トウェイン、スタインベックら白人男性キャノン作家たちと、ディアスポラの問題にいち早く着眼してきたヤマシタを並べて論じることで、新たな批評学的視点を提供することにも繋がると考えた。自身の発表では本研究プロジェクトにおいて培った『クラレル』解釈、ミレニアリズムの信仰が国境を越えた労働の拡散を促したという学説を活かすことができた。 さらに、10月には、巽 孝之監修、下河辺 美知子他編著『領域・脱構築・脱半球--- 二一世紀人文学のために』 の中の担当箇所として「Paul Giles--- トランスナショナリズムからグローバリゼーションを超えて」を掲載した。本研究プロジェクトにおける宗教性と労働の拡散の連動性という点では、ジャイルズ氏の研究法が徐々に文化人類学的な現地調査に接近しているところが大変参考になっているので、それを踏まえて論を展開することができた。12月には『英文學研究』98号の書評として、Michael JonikのHerman Melville and the Politics of the Inhumanを取り上げた。ジョニクの『クラレル』論はドゥルーズの理論に依拠したものであり、『クラレル』解釈の幅が広がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も新型コロナウイルス感染症の拡大により海外での現地調査が実現しなかったが、その分様々な文献を読解することができた。ミレニアリズム、シオニズム関係の文献にとどまらず、周辺的な理論や最新の批評などを渉猟することができた。それによって上述した全国大会での口頭発表(プロシーディングス)、論文の発表、書評の執筆と一定の業績を残すことができた。特に『クラレル』における宗教性についてミレニアリズムやシオニズムの観点から文献調査を深めることができた。『クラレル』はきわめて難解な作品であるが、数度となく精読し、全体の構造とキャラクターの役割をある程度整理して、要約することが可能となった。発表した論文の数は多くはないが、その分蓄積があるので、次年度に活かすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には、まず2022年3月26日に行ったナサニエル・ホーソーン協会九州支部でのシンポジウムにおける研究発表「「ラパチーニの娘」における思考と情念」の原稿をもとに国内の学術誌に投稿する論文を作成する。この論文には本研究プロジェクトにおいて調査したダークエコロジーとプロテスタント資本主義(マックス・ウェーバーの定義による)の対立関係に関する議論を含める予定である。また、5月には日本ナサニエル・ホーソーン協会のシンポジウムにパネリストとして参加し、メルヴィルと白人至上主義について論じる。これに関しても本研究プロジェクトで調査したミレニアリズムと資本主義の発展の関係性についての議論を応用的に用いる予定である。さらに、9月のヘンリー・ソロー学会でもシンポジウムを行い、ソローとトウェインの関係をプロテスタント的な神との合一と口述文化の継承という点で切り結ぶつもりである。いずれの発表原稿も論文として学会誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張や国内の対面による学会発表が新型コロナウイルス感染拡大によって中止となったため、使いきれない予算が残った。次年度は状況が変われば海外現地調査に赴くので、そのために繰り越しをお願いしたい。
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