研究課題/領域番号 |
20K00445
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
鵜殿 悦子 愛知県立大学, 外国語学部, 名誉教授 (00128638)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / ハーレム・ルネサンス / ネラ・ラーセン / 人種 / ジェンダー/セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
本研究は前回の科研費による研究(16K02497)を発展させ、以下のことを目的として行う。ハーレム・ルネサンスというアフリカ系アメリカ文学・文化の初めての隆盛期について、従来のような経済および人種運動の側面を重視する見方ではなく、アフリカ系アメリカ文学の質的量的隆盛の時期として捉え直す。特に、当時の黒人文学の「質」に注目し、従来の作品評価に対する見直しを行う。こうした見直しを要求する代表的な例として、ネラ・ラーセンの文学があり、その再評価を行う。ラーセン文学には、合衆国のカラー・ラインの正当性に疑問を投げかけるという、当時の黒人文学の中では突出した先見性が示されている。 今年度の研究では、ハーレム・ルネサンスについての研究者の論考を比較対照し、ルネサンス評価の歴史的変遷をたどった。その結果、近年の研究においては、ルネサンスの時期の始まりはより早く、終焉はより遅く捉えられていることが明らかとなった。2022年度も引き続き考察を続ける。 今年度は、ハーレム・ルネサンス研究と同時に、ラーセンの作品の精読を行った。その結果ラーセン研究の多くの時間は作品の翻訳に費やされた。 2021年7月には共著書『ハーレム・ルネサンスー〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評』(明石書店)が出版され、その中の一章「ハーレム・ルネサンスとネラ・ラーセン」を執筆した。22年3月には、ラーセンの二つの小説の翻訳である『パッシング/流砂にのまれて』(みすず書房)を出版し、巻末に詳細な「解説」を付した。それによって、従来誤解されてきた作家の経歴について正し、同時に、作品のより正確な読みを多少なりとも示すことができた。日本では英米小説の翻訳が数多くなされているが、優れたアフリカ系アメリカ文学の翻訳はほとんどなされていないのが現状である。優れた作品を世に伝えていく責任を痛感している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、必要な文献を読むなどのインプットの作業と、ラーセンの小説を翻訳することにほどんどの時間を費やした。コロナ禍のため、予定していた学会はZoom開催となった。一方、予定していた合衆国での資料調査・実地調査は行うことができなかった。 今年度の成果としては、共著書1冊を出版し、また、ラーセンの小説の翻訳書1冊を出版することができた。 2022年度にはアメリカ合衆国で実地調査を行いたいが、コロナ禍、ウクライナ情勢の影響で実現できない可能性もあり、その場合には代替の方法を考えたい。 実地調査以外の研究は予定どおり行うことができたので、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究の最終年度であり、以下のように研究を遂行する予定である。 1. 論文の執筆: 文献の読み込みを継続し、同時並行で論文を書く作業を行う。論文を完成し学会誌に論文を投稿するか、もしくは、現在計画中の著書の一章としたい。 2. 翻訳の完成:現在計画中の翻訳を完成させ、2022年度中には出版したい。 3. 合衆国での資料調査・実地調査:ニューヨーク、シカゴにおいて現地調査を行う必要がある。当初予定では今年度行う予定だったが、かなわなかったので、22年度に行うことにする。しかし、さらなる事情により当該年度に現地調査を行うことが困難な場合には、代替の方法について考えることにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究当初の計画では、今年度、アメリカ合衆国において学会出席・資料調査・実地調査を行う予定であったが、コロナ禍により学会の開催が中止となり、また、現地での調査を行うこともできなかったため、そのために確保していた金額が未使用となった。 2022年度分と合わせた使用計画は、合衆国での現地調査のための旅費、書籍購入費、現在進行中の翻訳書のプルーフリード謝金、書籍のデジタル化代金、その他の物品・消耗品の購入に当てる予定である。
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