研究実績の概要 |
本研究は、2000年代前後のポストモダニズムの言説の退潮とともに、北米のアカデミーで前景化してきた「レイト・モダニズム」の言説に焦点を合わせ、モダニズム研究におけるこの言説の理論的な射程と実践的な可能性について、下記の三点の視座から総合的な検証を行うものである。(a)「レイト・モダニズム」とその近接的時間概念の関係性についての批判的考察、(b)「レイト・モダニズム」の言説の歴史の批判的検証、(c)ブルームズベリー・グループの弁証法的プログラムとしての再配置。 本年度は(a)と(b)に関する研究書の読解を進めるとともに、(c)に関して具体的な介入を行なった。(a)と(b)に関しては、Rebecca BeasleyのRussomania: Russian Culture and the Creation of British Modernism, 1881-1922. (OUP, 2020)から多くを学んだ。この著作は、芸術的な実験性をモダニズムの本質として捉える傾向を「フランス型のモダニズム」と呼び、そこからこぼれ落ちる、形式よりも内容を重視するもう一つのモダニズムの姿を浮かび上がらせ、それを「ロシア型のモダニズム」と呼んだ。そして後者に関して、ロシア文学の英語への翻訳がモダニズムの編成において果たした役割についても生産的な観点を打ち出した。 この翻訳の視点と連動させるような形で、主に(a)、(c)に関して、今年は世界文学・語圏横断ネットワークで「モダニズムの翻訳――ヴァージニア・ウルフの場合」という研究発表をしたり、シンポジウム「Second Time Around ――D. A. ミラーの映画批評をめぐって」を企画し、そこで “The Secret of Reading: Hitchcock, Chabrol, D. A. Miller.” という研究発表を行なった。
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