2023年度は、本研究から生じた新たな方向性の模索をテーマとして研究活動を行った。2022年度までで、本研究テーマである、量的分析を用いて、19世紀イギリス詩・演劇作品にみられる他の時代・文化圏に属する作品の取り入れの研究を行い、一定の成果を見た。そこで得られた知見、およびさらに研究が必要と思われる領域の精査に最終年度は注力した。 ひとつは、英文学に量的研究を取り入れるというデジタル・ヒューマニティーズの分野への全体的な理解である。テクスト分析といった個別の研究に関する研究動向のみならず、広くデジタル・ヒューマニティーズ全体の研究領域へ目を向け、研究動向を調査した。学問領域としてのデジタル・ヒューマニティーズ、およびイギリス文学におけるデジタル・ヒューマニティーズ的研究について、それぞれ全体像と個別の研究領域での具体的研究を調べた。その成果は、日本英文学会関東支部大会のシンポジウムで、他のイギリス文学研究者、デジタル・ヒューマニティーズ領域の研究者らとともに発表を行うことで示した。 またより大きな研究の方向性として、三年間の研究の総括により確認された問題点への対処を行った。ひとつには、これまでは量的分析として、綴りの同じ語句の重なりのみを調べる古典的な手法を用いてきたが、機械学習の進展により、現在の研究は語句の意味や文脈による重なりを検討する時期に来ている。すなわち文脈を考慮したテクストの意味にもとづいた影響の分析を行う必要がある。このように意味を踏まえたうえで、個々の詩行のテクスト分析へと、量から質への変容を測ることが今後の研究の課題として見えてきた。このため最終年度は、機械学習を用いた文学テキスト分析の研究会を開催し、イギリス文学研究者のみならず、情報学、哲学、言語学、英語教育学といった様々な分野の研究者からなる研究者コミュニティを作り研究活動を始めた。
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