研究課題/領域番号 |
20K00455
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
澤田 敬司 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50247269)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ストーリーテリング / 先住民 / 演劇 / オーストラリア / 移民 |
研究実績の概要 |
ストーリーテリングを表現手法として用いる作品の比較研究として、今年度は劇作家アンドリュー・ボヴェルによる先住民を主題とした2つの作品、そして日系の劇作家マユ・カナモリの作品について研究を行った。まずボヴェルの『闇の河』を日本語に翻訳した上で、もうひとつの先住民劇『聖なる日』と「ストーリーテリング」の用い方について比較検討し、その分析結果をまとめた上で一冊の本として上梓した。さらに『聖なる日』を劇団俳小とともに東京で上演、日本の観客の反応を調査した。加えて同作品を演出した眞鍋卓嗣氏、批評家みなもとごろう氏と上演後の舞台でトークを行い、作品に対する日本の視点からの反応について議論を行った。 マユ・カナモリ作『ヤスキチ・ムラカミ』については、カナモリ氏と、オーストラリアでの同作品の舞台に出演していた二人の日系俳優、さらにオブザーバーとして演出家の和田喜夫氏とともに、オンラインにおいて作品についての議論を行った。またオリジナルの舞台を映像で視聴したオンライン参加者の、作品に対する意見についても収集した。このプロジェクトについては今後も継続し、日本での日本語による上演を実現させた上で、日本でのインパクトについてデータ収集と分析を行っていく予定である。 『聖なる日』『闇の河』『ヤスキチ・ムラカミ』の三つの作品は、オーストラリアのマイノリティの人々の「語り」を拾い上げようと試みたことで共通している。各作品にとって「語り」がどのような意味を持つのかについて、実際の上演および制作者とのディスカッションによって重要な資料を得られ、本研究は大きく推進されたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に推進された。その理由は、コロナ禍と演劇界への致命的なダメージにも関わらず、本計画の柱の一つであったアンドリュー・ボヴェル『聖なる日』が、当初の予定通りに上演され、さらに作り手、批評者と共に公開の議論を行うことも可能であったためだ。またボヴェルの『闇の河』、『その雨が降りやむとき』をも収録し、ストーリーテリングについての論考を収録した単行本を上梓することも出来、当初計画していた以上に、研究の進展とその成果の公表が可能になった。 一方、マユ・カナモリ『ヤスキチ・ムラカミ』は、当初の計画では三年目に予定していたリーディング上演を、本年度に前倒しすることになった。しかしその後コロナ感染拡大のために延期せざるを得なかった。しかしその代替としてオーストラリアの作り手、日本の演劇人を交えて作品についてのオンラインでのディスカッションを行った。このことで、今後の本作品のリーディング上演についての準備がさらに進んだと考えることが出来、当初の計画にあった年度での上演を目指す。そのため、当初予期していないことはあったが、総じて計画が遅延したとは考えていない。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の計画にあるような、オーストラリアへ出張して研究資料の収集を行うことが可能なのかどうかはコロナの状況による。しかしそれ以外の研究調査については、計画立案時に決まっていなかった上演プロジェクトが本研究期間に実現することになり、それらに対する調査分析が計画に加えられることになる。具体的に言えば、劇作家デヴィッド・ウィリアムソン作の修復的司法を主題にした三部作の上演計画が進んでいる。この作品は、法学のみならず演劇学的にとても重要な作品群であり、テクストに真正性がある「ドキュメンタリー演劇」「ヴァーベイタム演劇」として本研究テーマの中心に据えるべきものである。このように、新しいプロジェクトも進行させながら、当初の研究計画も推進させ、出張による調査・資料収集が難しい部分を補完していく。
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