研究課題/領域番号 |
20K00462
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中世ドイツ文学 / ディートリヒ叙事詩 / 写本 / 本文の流動 |
研究実績の概要 |
2020年度は、研究計画に沿ってディートリヒ叙事詩『ヴィルギナール』の主要3写本(V10, V11, V12)の本文を比較した。主たる着眼点は動態である。従来の通説は、V10の祖本が古態を残し、その派生形が写本V12の祖本であると見ていた。『ヴィルギナール』の残存写本のうち、完本であるV10, V11, V12以外はすべて断片写本であるが、それらがみなV10の系列に属することもこの通説を支える要因である。(V11はV10とV12の中間形態とされる。)しかしこの通説に異を唱える議論があることから、あらためて従来の知見を洗い直す作業を行った。 (1)主要3写本それぞれの本文における異同を検証し,各写本(あるいはその祖本)がもつ独自性(ないし独自性たりうるもの)を確認した。 (2)各写本における本文の動態(とりわけエピソードの縮小と拡大、および配置のずれ)を明らかにし、なぜそのような変化が生じたかについて考察した。 (3)現時点では、V10写本がもっとも古い形態をもち、それをV11やV12が引き継いだとみられる部分はやはり多いと認められる。しかしV11やV12にしかない記述もまた数多く存在する。したがってV10写本の「古さ」はあくまで相対的なものであり、単純にV12が(V10の祖本の)派生形の名残りであると断定するのは適切ではない、と判断した。 研究開始時点では,写字生(または改作者)の教養や素材収集欲よりもむしろ制作依頼者の嗜好が強く作用して本文が流動したと推定したが、その他の要因も考えられる。『ヴィルギナール』の3主要写本が3つの系統の存在を意味するのであれば、それらが書記伝承の過程で相互に影響しあった可能性がある。そうであれば、世界中の書承で見られる「混態本」の研究を応用することも可能であろう。引き続き考察を勧める所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は海外出張ができなかったため、当初予定していた重要な資料の閲覧や、それらを直接参照しつつ行うべき打ち合わせも叶わなかった。出張予定国では行動が著しく制限されているため、研究助言者2名も研究の遂行が困難で、さまざまな資料を直接手に取ることができない状態が続いている。 さらに謝金により大学院生の協力を得てデータ整理を行う予定だったが、データの確認には本文とデータの対照の際に対面での作業が不可欠である。いわゆる三密を避けることが困難であるため、この作業は行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
海外出張が可能になり次第、旅費によりドイツの研究助言者と資料を見ながら直接面談し、研究の進展をはかる。同時に、独力でできる作業を進めていく。具体的には、本研究企画が対象とする諸作品の、写本ごとの本文の異同の特徴と傾向をできるだけ明らかにすることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は海外出張を2度実施するための予算を計上したが、これを行うことができなかった。また謝金によりデータ整理を行うことも計画したが、いわゆる三密を避けるため、これも中止した。 したがって2021年度は、まず第一に謝金により前年度に行った研究のデータ整理を行う。そして計上した旅費を用いて海外および国内研究助言者と直接面談し、先方の持つ資料と当方のデータを対照させながら研究を発展させる。またいくつかの関連する研究書の刊行が見込まれるので、それらを購入して研究内容のさらなる充実を目指す。
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