研究実績の概要 |
本研究は、現在、自由化と市民社会の構築がめざましい勢いで展開しているマグレブ地域における新たな表現文化活動に注目し、その特質と意義を明らかにしようとするもので、とりわけ、全国的な市民デモを通じて社会変革が進行しているアルジェリアに焦点を据えて、文学のほか、若い世代による日本式マンガ(DZマンガ)の創作を市民意識の創成の観点から検討する研究に着手した。 本年度は、アルジェリアの代表作家であるサンサールの小説を詳細な解説つきで翻訳刊行したほか、10年以上前から展開されてきたDZマンガのうち、もっとも主要と思われる5作品10巻(Natsu, Degga; S. Sabaou, Street Fighter; S. Brahimi & M. Fella, Nahla et les Touareg; S. Brahimi & M. Abdelghani, Samy Kun; S.-A. Oudjiane & R. A. Hamou, Vitory Road) について具体的な作品分析と、創作の背景などについての調査をおこない、文書にまとめた。これを研究資料として、表象文化に関心のある研究者や学生に開示し、どのような反応があるのかを調査した。 作品内容と背景の検討から、アルジェリア内の地域的な多様性の尊重と都市偏重の価値観への反省意識、ジェンダー問題への鋭敏な意識、世代間格差の是正、覇権主義とは別種の国民としての自己肯定感の創出への意志などが析出できた。資料への反応からは、こうした側面をもつDZマンガが、作品としての「完成度」とは別の側面から、世界的な異文化理解と共生感覚の促進のために、きわめて触発力に富む素材であることがわかり、今後の研究活動展開の指針が得られた。 なお、現地の創作家とのビデオ会談を通じた意見交換が現地の新聞・ラジオで報じられ、本研究活動のプレゼンスを高めた。
|