ドイツは、18世紀後半から20世紀前半にかけて、ヨーロッパ内での文化的後進性を意識しながらも、それをナショナリズム的な優越性の意識へと転化させていった。本研究は、このプロセスの中での浮き上がってゆくドイツ翻訳思想の特質を明らかにしようとする試みである。ドイツのさまざまな思想家のテクストには、「異質なもの」を積極的に受け入れ、それによってドイツ語にあらたな力をもたらそうとする考え方が顕著に見られる。そのような翻訳に関する思想は、この時代の「ドイツ的」なものをめぐる言説の展開と分かち難く結びついていることがあらためて浮かび上がってきた。
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