研究課題
基盤研究(C)
「カロス」というギリシア語は好適さを表す語だが、ホメロスの時代から古典期へと下るにつれて複雑微妙な使い方をされるようになっていった。「アガトス」という語との違いを念頭におきながら、悲劇におけるすべての用例を調査した結果、この語は、感銘を表す従来の働きに加えて、変転する状況や刹那的な事態の好ましさや拙さを相対的に表すことのできる語として発展し、不安定な状況を描く悲劇によって好んで用いられることとなった、という推論を得ることができた。
西洋古典学
悲劇においては「カロス」という語が非常に複雑微妙な使い方をされるようになっていたが、それを跡付ける検討は従来ほぼ皆無であった。この語の意味は、プラトン・アリストテレスやプロティノスに関する言説において哲学的な検討がなされるのみであった。その中で、本研究はドラマの中の生きた言葉の中でこの語がどのように用いられたかを、はじめて体系的に整理したものである。悲劇におけるこの語の全用例の修飾対象類別一覧は、今後の研究にも少なからず寄与するはずである。