研究課題/領域番号 |
20K00471
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
南 コニー 金沢大学, 国際機構, 准教授 (10623811)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サルトル / 民衆法廷 / 実存思想 / キルケゴール / モラル / アンガージュマン / ジェンダー / 単独的普遍 |
研究実績の概要 |
本研究では、社会学的な観点からサルトルの「民衆法廷」が社会的均衡の一指標としてポリティカル・バランスの役割を担うに至った経緯を探りつつ、民衆法廷の常設化にいたるまでの意義を解明した。民衆法廷は、平和運動や反戦運動の一環として行われることが多く、従来の国際刑事法廷や国際司法裁判所が抱える国家間のパワーバランスの矛盾や時効の問題を解消することに役立っており、現在もなお世界中で開催されている。国際法廷は1967年、ベトナム戦争におけるアメリカの戦争犯罪を糾弾するために、ストックホルム、東京、ロスキレ(デンマーク)でバートランド・ラッセルが中心となって開催されたものが世界で最初のものであったが、その後、常設化された。本研究では、これまでの研究で明らかにされてこなかった、日本における1967年の「民衆法廷」の成果を研究者データを公開することで明らかにした。また本研究の一環として、オンライン国際学生フォーラム及び、オンライン国際シンポジウムを主催し、民衆法廷のもつ意義と今後の役割について討議し、国際的に高い評価が得られた。さらに、引き続きコペンハーゲン大学との国際共同研究を進めるとともに、フランス政府より協力依頼のあった民衆法廷に関するドキュメンタリー制作にも携わる予定である。このようなサルトルの後期思想に関する研究成果を発表した論文が海外の研究者(劉争:『例外の思想』)に引用されるなど一定の国際的評価を受けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去年同様に、新型コロナウィルスの感染の広がりのために、デンマーク等の国々への資料収集には出かけられなかったが、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。フランスやスウェーデンなどのメディアに掲載された1966年当時の民衆法廷に関する報道を基に、これまで明らかにされてこなかった議論の詳細を把握することが可能になった。このような考察を進める一方で、今年度は、グローバルジャスティスのもう一つの展開面としてマイノリティの解放や、ジェンダーの観点から女性解放の運動にも注目し、2本の論文を執筆した。「『海の夫人』における「自由意志」について』(『女性学評論』第36号、神戸女学院大学、2022年3月、91-110ページ)では、『海の夫人』の主人公エリーダの抑圧された環境と、自由意志への目覚めを考察することで女性解放へと向かう導線の詳細を提案した。また、「アイスランドにおけるジェンダーの取り組みと日本の課題」(『金沢大学国際機構紀要』第4号、金沢大学国際機構、2022年3月、20-35ページ)では、我が国のSDGsの取り組みや国内外の最新の統計を駆使しつつ、男女平等のために何が必要になるかの考察を行った。これらの論考はサルトルの後期思想の展開の可能性のひとつとして有意義な試みと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、サルトルの後期思想及びグローバルジャスティスの観点から、実践的な展開面として民衆法廷の今日的な取り組み及び、ジェンダーの観点から女性解放の運動にも注目しつつ学際的研究を行う予定である。また今年6月には、現況のヨーロッパの戦況を踏まえて、民衆法廷の可能性と今日的な取り組みについて国際EU協会において発表する予定である。また、7月には、キルケゴール協会において、サルトルの後期思想の展開について、発表予定である。以上に加えて、ダイバシティーの観点からも引き続きSDGsの取り組みの一つであるジェンダーの問題における国際プラットフォームを構築中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定していた海外での資料収集ができなかった。今年度中に受け入れ態勢の推移を考慮しながら予算を執行したい。
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