研究課題/領域番号 |
20K00473
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (20243868)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スタンダール / 『パルムの僧院』 / 手沢本 / 修正過程の考察 / 生成論 |
研究実績の概要 |
本年度(令和3年度)もまた、新型コロナウイルス・オミクロン株による世界的なパンデミックの影響によって研究の遂行に大きな支障をきたした。というのも、当初の研究計画では、パリ市立歴史図書館において、スタンダールの『パルムの僧院』手沢本の現物にあたり、同時にフランス国立図書館にて関連する文献や資料の渉猟を行う予定であったが、日本およびフランスにおける新型コロナウイルスの感染状況は、年度初めから年度末に至るまで間、海外渡航を許さず、また現地の各図書館も勤務時間の短縮やリモートワークなどの措置により充分に機能できておらず、日本から資料や文献などの写し等をすみやかに入手することがきわめて困難となったためである。こうしたなかアメリカ合衆国のモーガン図書館とコンタクトをとり、所蔵されている『パルムの僧院』の手沢本のひとつ、シャペール本の写真複製を依頼することができたのは僥倖であった。現在はその出来上がりを待っている状態である。 したがって、本年度は前年度に引き続き、国内で可能な資料収集を継続し、関連する先行研究の批判的な再検証を中心に行った。手沢本のうちロワイエ本とシャペール本については、先行研究が明らかにした作家の書き込みを時系列に沿って検証し、作者スタンダールによる修正の力線について、従来の仮説の孕む問題点を整理している。他方では、ランゲー=アザール本に残された書き込みの転写テクストを入手し、それらの内容をロワイエ本とシャペール本に記された加除の訂正に比較しつつ、同手沢本の役割と位置づけに関して考察を試みた。以上の研究に並行して、文献・資料の書誌情報を可能な限り網羅的にデータ化する作業を継続しながら、令和4年度に向けた研究計画の再構築を行った次第である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度(令和3年度)の当初の計画では、フランスに渡航してパリ市立歴史図書館ならびにフランス国立図書館において、スタンダールの『パルムの僧院』の手沢本(ランゲー=アザール本とロワイエ本)に関する現物調査を実施する予定であったが、周知のように新型コロナウイルスによるパンデミックのために、当初の研究計画を遂行することが叶わなかった。一方、かかる状況下でフランスの図書館が軒並み機能不全に陥り、必要な文献や資料に日本から容易にアクセスできなかったことも少なからず研究計画の遂行に災いした感がある。こうした状況は前年度始めから継続しているため、今年度の期間中の不利な状況と相まって本研究の進捗状況にさらなる遅滞をもたらした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、ニューヨークのモーガン図書館収蔵の『パルムの僧院』手沢本、通称シャペール本の写真複製を入手でき次第、これと比較照合しながら、1920年代の複製版に拠った先行研究の解読を綿密に検証し、新たな転写テクストを作成を試みる。この作業と並行して、パリ市立歴史図書館に『パルムの僧院』ランゲー=アザール本の写真複製を依頼し、同様の作業を進める準備を整える予定である。 さらに両本については、スタンダールによる加筆、削除、書き換えなどが行われた時期を考証し、ついで修正のモティーフや修正内容などの考察を行う。以上の作業を通じて、シャペール本とランゲー=アザール本の修正過程の全貌を把握すべく考察を行い、その成果にもとづきつつ、スタンダールの修正意図ないしは修正の力点を探る予定である。なお、フランス共和国における新型コロナウイルスの感染状況を注視しながら、渡仏が可能な場合には、フランス国立図書館(リシュリュー館)とパリ市立歴史図書館に足を運び、実際にロワイエ本とランゲー=アザール本の現物に当たり、マテリアルな側面からも手沢本の考察を試みる。その際に前者については、写真複製を依頼する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(令和3年度)の当初の計画では、フランス共和国に渡航してパリ市立歴史図書館ならびにフランス国立図書館において、スタンダールの『パルムの僧院』の手沢本の現物(ランゲー=アザール本とロワイエ本)にあたり、それらの写真複製を入手する予定であったが、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックがもたらした深刻な危機的状況下にあっては、当初の研究計画の遂行はまったく叶わなかった。しかも、現地の各々の図書館が実質的に機能不全に陥ってしまっていたため、日本から依頼して資料や文献などの写し等を入手することがきわめて困難となったことも、本研究の進捗に大きく災いした。そのため、当初の予算計画では支出の大半を占めていた海外渡航旅費が手つかずのままとなり、その分を次年度へ繰り越す仕儀に至った。 したがって、令和4年度は日本とフランスにおける新型コロナウイルスの感染状況を注視しながら、渡仏による資料調査を複数回行い、また同時に再構築した研究計画にもとづき、3種類の『パルムの僧院』手沢本の写真複製の入手に努め、その分析と考察に必要な機器や文献等を購入し、繰り越した分も含めて予算の執行を無理なく行う予定である。
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