研究課題/領域番号 |
20K00475
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井上 暁子 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (20599469)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ=ポーランド国境地帯 / 境界 / 移動 / 流動性 / 移民 / ディアスポラ / ポストモダニズム |
研究実績の概要 |
コロナ禍の影響で海外渡航を控えざるを得ず、資料の収集が叶わなかったため、「シレジアをめぐる多言語的な移動文学の系譜」のまとめ直しや「神話化されたシレジア・イメージの流通と変容」といったテーマの掘り下げは依然困難であった。
しかし、日本ロシア文学会と日本スラヴ学研究会の合同シンポジウム「記憶と想像の中の祖国・歴史・越境--ロシア・東欧における文化と変容」での報告や、単著『語りの断層――ドイツ=ポーランド国境地帯の文学』の上梓により、20世紀から21世紀のシレジア、あるいはそれを含むドイツ=ポーランド国境地帯を、「移動」という観点から論じることの意義や、それに有効な学際的アプローチを、移民文学を題材に示すことができた。
上記の書籍が扱う主な対象は移民文学であり、シレジアについての言及は一部に留まったが、本研究の主要課題でもある、シレジアの「流動的アイデンティティ」の特性を解明する糸口が示されていないわけではない。つまり、シレジアの「流動的アイデンティティ」には、現代世界の流動性を反映する側面と、シレジア固有のローカルな文脈に根ざす側面とがある。オルガ・トカルチュクのような作家の文学作品を通して見えるものは、しばしば前者であるが、前者の特徴をローカルな文脈に置き直し、波乱にみちた地域性を露呈させる文学的営為もあることから、改めて「シレジアをめぐる多言語的な移動文学の系譜」のまとめ直しや、「神話化されたシレジア・イメージの流通と変容」といったテーマの掘り下げが必要である、と認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で海外での資料収集ができなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
ウクライナの戦況も懸念されるところではあるが、国・地域によっては、新型コロナウィルスのパンデミックがひとまず落ち着きつつあるため、計画調書でまだ手付かずか、もしくは十分に論じることができていない、1)シレジアをめぐる多言語的な「移動文学」の系譜のまとめ直し、2)シレジアをめぐる移動の目的や種類の多様化、情報ネットワークの発達、大衆文化の普及との関係の整理、3)シレジアに注がれる多様なまなざしの国際的流通、について、研究期間の延長の申請も視野に入れつつ、掘り下げていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスのパンデミックにより、海外渡航を控えざるをえなかった。しかし、地域・国によっては感染状況は徐々に落ち着きを見せ始め、ベルリンやワルシャワの図書館も、コロナ前のように利用することが可能になりつつある。ウクライナの戦況を含め、状況を見つつ、夏の渡航を計画している。
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