研究課題/領域番号 |
20K00484
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
田母神 顯二郎 明治大学, 文学部, 専任教授 (30318662)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ピエール・ジャネ / フランス精神医学 / 精神衰弱 / 現実機能 / 不全感情 / ベルクソン / 創造機能 / 心的緊張 |
研究実績の概要 |
2020年度に引きつづき、研究計画は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、大きな変更を余儀なくされた。とりわけ、海外での資料収集はまったく実施できず、また国内での他の研究者との連携もあまり進めることができなかった。しかし、本研究の根幹に関わるピエール・ジャネの理論研究そのものは、着実に進展させることができ、その結果を二つの論文を通して発表した。2021年度は、とくにジャネ中期の代表作である『強迫観念と精神衰弱』に焦点を当て、その中で展開される「精神衰弱」、「不全感情」そして「現実機能の喪失」といった概念を掘り下げて考察した。その際、これまでの先行研究を十分踏まえ評価する一方、『苦悶から恍惚まで』などジャネの後の作品で提出される高度な心理学理論とも関係づけながら、ジャネの「現実機能」が実際は「現実創造機能」と呼ぶべきものであることを明らかにした。つまりジャネは、ヒステリー研究同様、あらたな精神衰弱研究においても、その根源に創造能力の喪失もしくは減退を見出していたのである。 この他、2021年度後半には、『心理学的治療法』や『苦悶から恍惚まで』についての考察も行うことができ、その結果は2022年度に発表できる見込みである。 なお海外での資料収集が行えない分は、2020年度に引きつづき、海外の電子アーカイブを利用することで補った。また、国内での他の研究者との連携については、明治大学文学部心理社会学科に所属する加藤尚子教授と相談する機会をもち、さらに加藤教授のつてで、長年ジャネを研究し、ジャネについての論文も出している日本社会事業大学の藤岡孝志教授を紹介してもらえることになった。今はまだ、こちらの準備不足で、そうした大家に何かをお願いできる段階にまで至っていないが、2022年度は準備を整えて相談にうかがい、できれば念願の「ジャネ研究会」を立ち上げたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャネ研究会の設立とシンポジウムの実施という計画については、新型コロナウイルス感染症の影響もあって遅れがあるが、肝腎のジャネ理論の考察と全体的統一像の解明については、着実に前進している。より具体的には、ジャネの五大著作のうち、中期を代表する第三作『強迫観念と精神衰弱』までは、しっかりと考察することができ論文も発表できた。また後期を代表する第四作『心理学的治療法』と第五作『苦悶から恍惚まで』についても研究が進み、とくに『心理学的治療法』に関しては、論文執筆が可能な段階まで準備が進んでいる。また資料収集についても、海外での資料収集ができなかった分、電子アーカイブを極力活用し、必要な文献の収集に務めてきた。この結果、『苦悶から恍惚まで』以降に発表された論文についても、あらたに研究対象に加えることが可能となりつつあり、いっそう完全で網羅的なジャネ研究を行える見込みが出てきたということができる。 一方、 ジャネ研究会の設立とシンポジウムの開催についても、「概要」欄に記したとおり、明治大学文学部心理社会学科に所属する加藤尚子教授のご協力を得て、徐々に進行中である。本研究の研究代表者の研究が進展してきたことで、よりいっそう、研究会やシンポジウムの計画は実現可能性を増してきたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
上にも記したとおり、2022年度以降は、まずジャネの後期の代表作(『心理学的治療法』、『苦悶から恍惚まで』)を中心に考察を行い、その結果を論文の形で発表する予定である。また、当初は主要対象に含めていなかった『苦悶から恍惚まで』以降に発表された論考についても、研究を進めていく予定である。文献資料については、かなりの程度、集めることができたが、まだ不足している部分もあり、それらについては海外(フランス等)に渡航し現地で収集活動を行うことも視野に入れながら、対処していきたいと考えている。 一方、ジャネ研究会の設立とシンポジウムの開催についても、今後は時間とエネルギーを割き、進捗させていきたい。前述の加藤尚子教授や藤岡孝志教授と話し合いの場をもち、貴重なアドバイスをもらいながら、研究者のネットワークを拡げていけたらと考えている。そのためにも、今年度の夏までに『苦悶から恍惚まで』)の考察を終え、互いの研究や問題意識を比較検討する形で、相互理解を深め、研究会の目的や活動内容を決めていくようにしたい。また加藤氏や藤岡氏の協力を得ることにより、海外のジャネ研究者(英語圏、仏語圏)とのネットワークも構築できるようになるのではと考えている。このようにして、当初の計画に記したとおり、日本における「ピエール・ジャネ学」の基盤を形成していきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度にひきつづき、新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた海外での資料収集が行えなかったため。また、同様に、他の研究者と連携も進まず、シンポジウム等も行えなかったため。
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