ラテンアメリカ全体における文学出版活動を視野にいれつつ、アルゼンチンの三大出版社、ロサダ社、スダメリカナ社、エメセー社を中心に、20世紀アルゼンチンにおける出版社の動向を踏まえ、出版業と創作活動との関係性を詳細に分析した。最も大きな成果は、2024年5月末に勉誠社より刊行予定の研究書『ラテンアメリカ文学の出版文化史ー作家・出版社・文芸雑誌と国際的文学ネットワークの形成』であり、本計画の直接的成果となるのは、第一部 概論「20世紀のラテンアメリカにおける文学出版業」(寺尾隆吉単著)、第二部国際的文学ネットワークの形成に向かって第一章「出版黎明期のアルゼンチンとホルヘ・ルイス・ボルヘスの創作――「ドン・キホーテの作者ピエール・メナール」の背景」(寺尾隆吉単著)、第二章「文芸誌『スール』とラテンアメリカ文学」(大西亮単著)である。このほかにも、本書には、ウルグアイ、メキシコ、ベネズエラにおける出版の創作の関連性を分析した論文が収録されており、ラテンアメリカ文学研究者のみならず、文学研究者すべてに有用な情報を提供すると考えられる。2022年のラテンアメリカ学会では、パネルB「20世紀のラテンアメリカにおける創作と出版戦略―アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコの事例」に寺尾と大西が参加し、それぞれ、「出版黎明期のアルゼンチンとホルヘ・ルイス・ボルヘスの創作活動」、「文芸雑誌『スール』とラテンアメリカ文学」というタイトルで研究発表を行った。このほか、研究テーマと密接にかかわる文芸雑誌(『スール』、『レアリダッド』、『マルティン・フィエロ』など)の収集とデータベース化を行い、今後さらに研究を発展させていくための土台を築いた。
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