研究課題/領域番号 |
20K00487
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研究機関 | 九州共立大学 |
研究代表者 |
山本 洋一 九州共立大学, 経済学部, 教授 (90268780)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヘルマン・ヘッセ / 少年の日の思い出 / クジャクヤママユ / 改作 / 国語 / 教科書 / 受容 / 新解釈 |
研究実績の概要 |
令和2年度実施予定の研究計画のうち、中学校教育現場での『少年の日の思い出』の教材研究及び学習指導案等の検証には着手しており、国語授業における当該作品の「読み解き方」の実態調査は現在継続中である。しかし、作品解釈の実態把握に不可欠な授業参観による調査は、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響下で、外部からの来訪者受け入れに慎重な各中学校から許可が得られず実現していない。また、主に大学生を対象とした、『少年の日の思い出』の読書体験を通した作者ヘッセの認知度等に関するアンケート調査も、遠隔授業主体の大学での実施が困難なだけでなく、新たな授業形態の対応に奔走する教員に協力を要請すること自体はばかられ、現在に至るまで実施できていない。 この現状を踏まえ、令和2年度は当初の計画を変更し、『クジャクヤママユ』から『少年の日の思い出』への改変とその創作上の意味、さらにはそこに潜在する『少年の日の思い出』の新解釈の可能性について、両者の詳細な比較を通して検証し、その成果を論文「《Das Nachtpfauenauge》から《Jugendgedenken》へ -改作の試みとその意味-」(Berichte 26号, 日本ヘルマン・ヘッセ友の会/研究会,2021年3月)として発表した。同論文での検証は、本来当該両作品間の複数の改作をも含めた、連続的な変遷のプロセスとの連関においてなされるべきものであるが、令和3年度実施予定の改作の発掘調査完了の後、あわせて再検証を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究初年度当初より新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、予定していた研究調査の中核をなすアンケート調査及び授業参観の双方とも実施に至っていない。まず、中学校の国語の授業で学んだ『少年の日の思い出』が「ヘルマン・ヘッセ」の読書体験として認識されているか否かを検証するための認知度、記憶度に関する大学生対象のアンケート調査については、全国の多くの大学で対面授業の実施が困難な状況にあった上に、同調査に際して協力の依頼をする大学教員自身もまた現場対応に極めて多忙な日々を送っており、依頼ができる状況ではないとの判断から、翌年度以降に延期することとした。さらに、中学校の授業参観を通した同作品の教材としての「読まれ方」についての実態調査も、複数の中学校に参観許可を申請したものの、現在に至るまで許諾が得られていない。ただし、『少年の日の思い出』の現場教員等による教材研究及び学習指導案の調査には既に着手し、現在検証作業を継続しているところである。 しかし、上記の現状に鑑み、当初の計画では研究2年目に『クジャクヤママユ』から『少年の日の思い出』に至るまでの改作の発掘調査を経て最終年度にまとめる予定であった論証の一部を、暫定的に当該両作品のみの比較検証を手がかりとして、改作の意味と『少年の日の思い出』の新解釈の可能性に言及した論文「《Das Nachtpfauenauge》から《Jugendgedenken》へ -改作の試みとその意味-」(Berichte 26号, 日本ヘルマン・ヘッセ友の会/研究会,2021年3月)を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
既に言及したように、本研究は大学生へのアンケート調査、中学校の国語の授業参観、『少年の日の思い出』(1931年)とその原点としての『クジャクヤママユ』(1911年)の間に存在すると言われる、書籍のかたちで刊行されていない複数の改作の発掘調査等、各種研究調査を中心に成立するものである。 しかしながら、本研究初年度に始まった新型コロナウイルス感染症蔓延の影響下で、今後も研究調査遂行が困難な状況が継続することも十分に想定されることから、調査の手法や研究の順番などを、状況に柔軟に対応させながら研究の遂行を図っていく予定である。 まずは本研究2年目の令和3年度に予定している最も重要な研究調査としてのドイツにおける上記改作の発掘については、わが国、ドイツ双方のコロナ禍が、調査遂行が可能な状況になるまで収束を見せた段階で実施する予定であるが、期待通りの状況好転が今年度中に認められない場合は、最終年度に繰り延べて実施することとする。 また、初年度に予定しながら実現できていないアンケート調査及び中学校の国語授業の参観に関しては、感染蔓延状況に十分に配慮しながら、できる限り令和3年度中に実施したいと考えている。 これらとは別に、既に着手している、『少年の日の思い出』の現場教員等による教材研究及び学習指導案の検証作業はこのまま継続した上で、これも令和3年度中にその概要をまとめ、論文等のかたちで発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は年間を通じた新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、参加予定の学会が旅費を要するかたちでは開催されなかったことと、中学校国語の教育現場に赴いてなされる授業参観もまた実現できなかったことにより、結果として旅費はまったく支出されていない。一方、当初は令和3年度に購入を予定していたいくつかの物品を、前もって初年度中の購入としたことにより、物品費は当初予定額を上回って支出したことになるが、双方の合計も初年度予定支出額には至らなかった。 令和3年度もコロナ禍がこのまま継続した場合は、当初予定していた調査の手法や研究の順番等を、状況に柔軟に対応させながら研究遂行を図ることとなるが、上記繰越分については、同年度に購入予定であった物品のうち、いまだ未購入の物品購入の費用の一部として支出するとともに、令和2年度に実現できていない授業参観等のための旅費としても一部充当するかたちで支出する予定である。 これと同時に、本来令和3年度に予定しているドイツにおける調査研究のための旅費等は、わが国、ドイツ双方のコロナ禍が、調査遂行が可能な状況まで収束を見せた段階で実施する際に支出することとする。
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