新型コロナウイルス感染症の影響により実施できていなかった、本研究における最も重要な《Jugendgedenken》(1931年)とその原点《Nachtpfauenauge》(1911年)の間に存在すると言われる、書籍のかたちで刊行されていない複数の改作のドイツでの発掘調査が、研究期間を延長した令和5年度に入って実施することができた。同調査では、主にヘッセ作品及びその関連書籍の編集者・研究者として著名なVolker Michels氏の膨大な資料アーカイブHermann Hesse Editions Archivと、とりわけ文学関連資料が充実している公共の資料館Deutsches Literatur Archivを利用ながら上記資料の発掘収集に当たり、結果として10種類の改作の存在を確認し、同時にその資料の複写を入手することができた。現在、これらの改作と上記2作品《Nachtpfauenauge》、《Jugendgedenken》との比較検証を実施しているところである。 これとは別に、本研究の途上で執筆した、《Jugendgedenken》が『少年の日の思い出』としてわが国の中学の国語教科書に戦後70年以上にわたってほぼ継続的に掲載されてきた事実を含めたHesse受容の実態と、学校教育における同作品の理解の現状とその問題点などに関する論考“Jugendgedenken”(Memories of Youth): The Impact of a Hermann Hesse Short Story in Japan over 70 Yearsが、世界各国のヘッセ研究者19名との共著Hermann Hesse’s Global Impactに掲載され、イギリスの出版社Camden Houseから2024年末に刊行されることが決定している。
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