研究課題/領域番号 |
20K00488
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
中里 まき子 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (40455754)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | フランス革命 / ロラン夫人 / 記憶 |
研究実績の概要 |
ロラン夫人の表象の変容を、フランス革命期から19世紀末まで時系列で辿り、以下の知見を得た。 革命期に書かれたレチフ・ド・ラ・ブルトンヌ『パリの夜』や、作家ではない一市民セレスタン・ギタールの日記の検討から、革命当時のロラン夫人はまだ主要なジロンド党員に数えられておらず、その処刑にしても、マラーの暗殺者シャルロット・コルデーの処刑に比べて扱いが小さかったことが確認された。しかし死後に獄中記が刊行されると、スタンダールら作家たちの注目が集まり、ジュール・ミシュレ『フランス革命史』(1847~1853年)ではシャルロット・コルデーと同様の印象的な記述がなされた。そして革命から100年を経た19世紀末には、文献の批判的読解を通してロラン夫人の記憶を再検討する動きが見られた。処刑の日付の不確定性が指摘され、この人物の最後の言葉(「ああ自由よ……」)の信憑性にも疑問符が付された。このようなロラン夫人像の変遷は、19世紀フランスにおける革命の記憶のあり方や、歴史研究の発展の状況を映し出すものである。 また、本研究は、革命派(主に共和派)と反革命派(主にカトリック・王党派)とで、革命の記憶が分断されてきたという認識のもと開始されたが、それに加えて、旧植民地における記憶を考慮に入れる必要性が浮上した。その理由として、上記のセレスタン・ギタールの日記に、革命期の植民地における黒人反乱等の記述が複数あることや、黒人反乱を指揮したルイ・デルグレスの名前がパンテオンに刻印されるなど、記憶を顕彰する新たな動きが見られることが挙げられる。植民地の状況は共和国の歴史において積極的に語られてこなかったが、近年、フランス人の意識が変化してきたと考えられるため、検証が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスでの現地調査や文献収集を実施し、関連する書籍を購入し、研究者との意見交換を行うことができた。また、複数の論考を発表することができたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得た知見を総合して、ロラン夫人の表象の変遷を革命期から19世紀末まで辿る論考を発表する。また、革命派(ロラン夫人など、主に共和派)と反革命派(主にカトリック・王党派)の記憶に加えて、旧植民地の状況も考慮に入れて、フランス革命の記憶の継承をより広い視野から検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外渡航制限のため、2020年度と2021年度に実施できなかった現地調査について、2022年度(最終年度)にある程度は行うことができたが、予定していた研究計画を十分に遂行することはできなかった。そのために生じた次年度使用額については、研究期間を一年延長して、現地調査、文献収集、成果発表のための旅費として使用することとする。
|