研究課題/領域番号 |
20K00490
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大森 雅子 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (90749152)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ソ連文化 / ロシア文化 / 独ソ戦 / 児童文学 / 児童雑誌 / 『ムルズィルカ』 / コルネイ・チュコフスキー / ミハイル・ゾーシチェンコ |
研究実績の概要 |
本年度は、ソ連時代の代表的な月刊児童雑誌『ムルズィルカ(Мурзилка)』(1924-)に焦点を当てて研究を行った。5歳から10歳までの読者を対象とした『ムルズィルカ』は、独ソ戦期(1941-45)の物資不足の中でも一度も休刊することのなかった数少ない児童雑誌であったことから、本年度は戦時中から戦後にかけて刊行されたバックナンバーを通覧し、年代ごとに特徴を整理した上で、同時代の大人向けのメディアや他の児童雑誌・新聞との比較分析を行い、『ムルズィルカ』の独自性を考察した。 本年度の研究で明らかになったことは、独ソ戦の戦況に応じた誌面の内容の変化は、全世代のメディアに共通しているものの、『ムルズィルカ』におけるヒトラーのイメージやドイツ兵に関する挿絵と言説は、当時の大人向けの雑誌やピオネールの年代向けのメディアのものとは大きく異なっており、「敵」に対する憎悪感情の煽動があまり見受けられない点である。 本年度はまた、当時の『ムルズィルカ』に掲載されたコルネイ・チュコフスキーやミハイル・ゾーシチェンコ等の独ソ戦に関連する短篇のテクストと挿絵を取り上げ、戦争でトラウマを負った児童のための娯楽雑誌としての観点から『ムルズィルカ』の実態を分析した。 以上の研究成果について、2022年12月15日から17日まで台湾の淡江大学にてオンラインで開催された国際学会「ロシアの言語学とロシア文学研究2022」において口頭発表を行った。その後、学会発表の内容に、ロシア文化の専門家からのアドバイスを反映させて加筆した論文を当学会の論集に投稿し、受理された。論集の刊行は2023年5月の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は、ロシア軍によるウクライナ侵攻の影響で、当初予定していたロシアの図書館での資料収集ができなかった。本研究の分析対象であるソ連の児童雑誌のうち、『ムルズィルカ』についてはインターネットでの閲覧や近年出版された児童雑誌の図版集によって研究の見通しが立っているものの、それ以外の主要な児童雑誌の多くは、オンラインでの通覧が難しく、それらの全体像を通史的に捉えることが難しい状況のまま現在に至っている。そのため、『ムルズィルカ』以外の「敵」の表象の変遷について、雑誌ごとや時代ごとに主要な特徴を整理し、対象年齢の異なる児童雑誌を比較する作業が滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度中にロシアへの渡航が可能になれば、現地で児童雑誌に関する資料収集を行いたいと考えているが、当分の間はインターネットで閲覧できる資料と児童雑誌の図版集を用いて、研究を進めていく予定である。 次年度は冷戦期の『ムルズィルカ』を中心的に取り上げる。その際、ソ連文化研究の知見も活かして、同時代のアニメーションや風刺画、歌謡曲といった児童雑誌以外の他のメディアにも研究対象の範囲を広げ、『ムルズィルカ』における「敵」表象の特質を多角的に考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度もロシアの図書館での資料収集を断念したため、次年度使用額が生じた。次年度にロシアへの渡航が可能になれば、現地でソ連の児童雑誌を閲覧し、関連資料の収集に努めたいと考えている。現地調査が引き続き難しい場合は、書籍とパソコンおよび周辺機器の購入費用に充てたい。
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