研究課題/領域番号 |
20K00491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 潤 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50613098)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英雄叙事詩 / 受容史 / ドイツ文学 |
研究実績の概要 |
令和4年度には、前年度まで取り組んできた中世英雄叙事詩の中世盛期から後期にかけての英雄詩素材の受容研究と、19世紀後半から20世紀半ばにかけての中世英雄叙事詩の文学史叙述における位置づけに関する研究を、複数の論文にまとめた。まず、令和3年度に行った、中世盛期から後期にかけての英雄伝承の教化素材化の諸相を検証した口頭発表を改訂補筆し、論文化した。本論文は今後出版が予定されている書籍に収録予定である。 また、本研究課題でとりわけ重点的に取り組んでいるテーマである、英雄叙事詩が中世に持ちえた歴史的アクチュアリティを主題とし、その中世盛期から後期にかけての変遷を複数の叙事作品において検証した成果を「Historizitaet der mittelhochdeutschen Heldendichtung - Eine Analyse aus der Perspektive des historiographischen Geschichtsverstaendnisses(中高ドイツ語英雄詩の歴史性―歴史叙述的歴史理解の視点からの分析)」として論文化した。本論文は日本独文学会機関誌Neue Beitraege zur Germanistik第165号への掲載が決定している。 さらに、令和2年度に口頭発表した19世紀後半から20世紀半ばまでのオーストリア文学史叙述における中世英雄叙事詩の位置づけに関する考察を論文化した。加えて『ニーベルンゲンの歌』を素材として1944/51年に書かれたオーストリアの劇作家マックス・メルの戯曲『ニーベルンク族の災厄』を分析し、第二次世界大戦の敗戦という敷居を挟んだオーストリアにおける『ニーベルンゲンの歌』受容を検証し、これを論文にまとめた。この二つの論文は2023年5月に刊行される書籍『モルブス・アウストリアクス』に収録される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、これまでの口頭発表の形て公表してきた成果や、蓄積してきた研究を論文化する一方で、さらに研究対象を拡大することが出来たため、大きな進捗のあった一年であるといえる。また、新型コロナウィルスの状況が漸く落ち着きを見せはじめたため、本研究を開始してから初めてドイツへと渡航し、同地での資料調査を行うことが出来たことも、今後の研究に資するところが大きい。現在はさらに20世紀における中世英雄叙事詩のアダプテーションについての研究を進める一方で、滞独中に収集してきた文献の読み込みを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度には、海外渡航を巡る状況が好転したことを受けて、夏季と冬季に複数回の渡欧を計画している。さらに、海外研究者を招聘してのコロキウム開催を検討している。また、今後の研究対象として、中世英雄叙事詩を素材とする20世紀後半の受容的作品の分析に加え、映画作品や音楽作品(主にオペラ)における中世受容のあり方に関する研究を進める。映画作品に関しては、すでにフリッツ・ラングによる『ニーベルンゲン』に関する口頭発表を行っており、またその論文化もほぼ完成している状況である。これらの研究成果を、一つの通時的な受容史としてまとめる準備にも取り掛かる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度および令和3年度は、新型コロナ感染症の拡大およびウクライナ情勢を受け、予定していたドイツ・オーストリアでの資料調査の実施が不可能であった。令和4年度にようやく一度渡独ができたものの、これまで資料調査のための旅費として想定していた予算が繰り越しとなっている。そのため、令和5年度には複数回の渡欧を計画しており、次年度使用額はその費用にあてる予定である。
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