研究課題/領域番号 |
20K00492
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
小田 淳一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (10177230)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルドリュス / ベル・エポック |
研究実績の概要 |
《ベル・エポック》のパリで刊行された『千一夜物語』フランス語版の訳者ジョゼフ=シャルル・マルドリュス(1868-1949)が遺した未公開の手書きノート「カルネ」四点(A,B,E,FGH)の翻刻とデジタル化を,法定相続人から受けた独占的使用の許諾に基づいて行った。カルネはマルドリュスが執筆活動を行うための覚書に類したものであり,百科事典的な記事や『クルアーン』『ハディース』などから引用されたアラビア語章句,またその他の様々な記述から成り,四点の総頁数は約700頁で,画像は約370枚である。翻刻に際して,フランス語テキストについては研究代表者小田とフランス語を母語とする海外研究協力者が行い,アラビア語テキストについてはアラビア語を母語とする海外研究協力者が行った。翻刻した画像枚数はそれぞれ,カルネAが全178枚(83802語), カルネBが118枚中20枚(8010語), カルネEが45枚中29枚(2932語), カルネFGHが全29枚(11509語)であり,全体の約七割の翻刻を終了し,翻刻したテキストの内容に関する大まかな分類も行った。また翻刻したテキストのうち,判読が困難な箇所については国内外の複数の研究協力者から情報を得てある程度までの確認を行うことができた。さらに,マルドリュスの存命中から当時の中東学者に疑問視されてきた彼のアラビア語能力については,当該言語の語彙が大半であるカルネEの翻刻を約半分終えた時点で,アラビア語を母語とする海外研究協力者から,マルドリュスが十分なレベルのアラビア語に関する知識を有していたことを示しているとの判断を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルネ四点の翻刻作業については,対象とする全画像約370枚のうちほぼ七割までを終了し,当初の予定よりも作業が捗った。その一方で,綴りの揺れやマルドリュスの筆跡の癖などに起因する判読困難な箇所が非常に多かったために,それらの箇所を入念に確認して判読するのに予想以上の時間を要した。また従来疑問視されてきたマルドリュスのアラビア語能力については,アラビア語が多用されているカルネEの翻刻を約半分終えた時点で,十分なアラビア語知識が認められるという判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
残るカルネのテキスト翻刻作業を精細画像に基づいて進めると共に,今まで翻刻したテキストのうち判読が未だに困難な箇所の確認を継続して行う。翻刻及び判読が終了した箇所については,記述されている内容の典拠を特定する作業を行うと共に,語彙の使用頻度や結合関係などを計量的に分析することによってデータ化し,マルドリュスの多彩な文筆活動の背後に存在した知的情報資源の構造的特徴を捉える。また《ベル・エポック》のパリでマルドリュスと親交があった文学者との交流に関わる記述を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19の流行により,今年度当初に予定していた,海外研究協力者と共同で翻刻したテキストの照合作業を行うための旅費が執行できなかったために次年度使用が生じた。次年度中にCovid-19の流行が収まった場合,改めて照合作業を行うための旅費として使用する。また,必要に応じて翻刻したテキストの研究協力者による校閲作業の謝金として使用する。
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