研究課題/領域番号 |
20K00497
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30411002)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 未来派演劇 / フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ / ルッジェーロ・ヴァザーリ / フィッリア(ルイジ・コロンボ) |
研究実績の概要 |
未来派演劇における身体表象の在り方を劇作法や舞台衣装、舞台装飾の分析から再検討することで、20世紀前半の前衛運動、とりわけ舞台芸術における抽象や機械の意味を解明し、同時代以降の演劇にいかなる影響を与えたかを検証することを目的とした本研究において、研究初年度にあたる令和2年度は、未来派の舞台芸術に関する諸宣言や理論的著作を通時的に再検討し、身体性の在り方に関連する未来派の思想を再構築することから始め、以下の2点を明らかにした。 1.未来派運動の黎明期において、創始者マリネッティは機械文明に適した人間の在り方として、モーター化あるいは金属化した身体への移行を提唱している。この思想の背景には、ニーチェやダンヌンツィオの超人思想の影響もあったことは確かであるが、それ以上に自らもまた旧い感性を持ち、旧来の自然-女性に従属する人間であることを認めまいとする、機械文明の時代における未来派同人の不安や苦悩が現れていた。 2.20年代後半の第二未来派に属するフィッリアやヴァザーリの戯曲や小説の中においては、近代崇拝の反措定としての自然への回帰、生身の身体性の回復が現れていることを究明し、その背景に、産業文明と帝国主義の神話の帰結としてのファシズムの具体的な現実が、イタリアの前衛運動へと落とした負の影響を指摘した。 この2点の詳細に関しては、令和3年度に学術論文として発表する予定である。 今後の研究の展望としては、パンナッジとパラディーニによる「バレエ・メカニック」やデペーロが提唱した「造形演劇」など、機械化した身体表象による舞踊芸術の実験について分析を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はマリネッティの「オブジェ・ドラマ」やバッラのバレエのための舞台美術、プランポリーニが舞台装置に導入することを構想した造形性や躍動的な色彩などについて、作品の詳細な分析はもとより、当時の雑誌や劇評といった一次資料の綿密な調査から、そこに現れる抽象化された身体の同時代における意味を明らかにすることも念頭に置いていた。 こうした研究を進めるために、申請者は国内において適宜研究協力者と意見交換を行うことに加え、2週間ほどローマへ渡り、国立中央図書館やローマ大学近現代史学科図書館・舞台芸術セクション「ジョヴァンニ・マッキア」、未来派関連雑誌の約95%が収集されている「エチャウレン・サラリス」財団資料館などで現地調査と資料収集を行うつもりであったが、コロナ禍の状況において、国内・海外ともに現地の実地調査ができず、資料収集や海外の研究者との意見の交換が不十分であった。これに伴い、論文の執筆も遅れている現状である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは令和2年度に研究する予定であった課題のうち未遂であるバッラのバレエのための舞台美術やプランポリーニの舞台装置などにおける身体性について、当時の雑誌や劇評といった一次資料の調査を行いたい。 次に当初の研究計画通り、未来派の身体性に関するもう1つの仮説である「機械化」について、やはり舞台装飾や上演実践の分析から、その具体的な形象やそこに込めた意義についての考察を行いたい。主たる分析の対象となるのは、イーヴォ・パンナッジとヴィチーニョ・パラディーニによる『バレエ・メカニック』やデペーロが提唱した「造形演劇」など機械化した身体表象による舞踊芸術の実験である。この研究のために、申請者は3週間ほどロヴェレートとベルリンで現地調査と資料収集を行うつもりである。 ただし、令和3年度も現地調査ができない可能性が高く、その場合は令和2年度の時点ですでに先行して始めているマリネッティやフィッリア、ヴァザーリの戯曲作品の分析をさらに進め、衣装を含めた舞台装飾の面から切り離した形で、戯曲の内容や劇作法の内側における身体の機械化・抽象化の文脈を再構成し、その時代的な意義を確定させることに努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に予定していた1週間の国内出張と2週間の海外出張がいずれもコロナ禍の影響で実施できず、その結果旅費の執行はなく、また現地での資料購入のための物品費、購入した資料の整理のための人件費の執行もなかったことが次年度使用額が生じた主因である。 令和3年度に現地調査ができる場合は、当初の滞在予定を若干延長する予定であるため、令和2年度の予算の一部も活用したい。
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