研究課題/領域番号 |
20K00497
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30411002)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 未来派綜合演劇 / マリネッティ / 未来派芸術における身体性 / 未来派創立宣言 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、未来派の身体性に関する1つの仮説である「機械化」について、戯曲テクストや上演実践の分析から、その具体的な形象やそこに込めた意義についての考察を行うことを目的としていた。学術論文と口頭発表の形で以下の2点について研究実績を公表した。 1.(学術論文)「マリネッティにおける機械化された身体」、『言語文化研究』第48号、大阪大学大学院言語文化研究科、39-58、2022年3月31日 本稿では、未来派としての出発点である「創立宣言」のうちに,近代のリズムに適応する再生後の身体表象として、工場で生まれ、生産工程で排出される金属の浮滓が溶けた泥土で育つ人間の姿がすでに予告されていたことを指摘することから出発し、近代性に直面したときのマリネッティの当惑や機械的な身体表象に対する敵意を読み解くことで、声高に謳われた近代崇拝や機械化された身体の提案に潜在する心理的背景として、時代への不適応感や自らの感性を新しい時代に調和させたいという願望を明らかにした。さらに、マリネッティが志向する「増強された人間」が、交換可能な身体のパーツを備え、機械と共通の言葉を話し、機械化された思考を持つ身体表象への変容であったことを検証するとともに、その変容における意志の決定的な役割を指摘した。そして最後に、その意志が外在化され、目に見えない身体表象として機械化された身体に加わることで、世界の相貌を更新し未来派的なエデンを永続させるための超人を無性生殖で生むことが可能になるというマリネッティの思想を詳らかにした。 2.(口頭発表)〈未来派総合演劇宣言〉を読む―戯曲における実践の検証を通して―、イタリアにおけるモダンとアヴァンギャルドの相克II、立命館大学、2022年3月4日
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画で予定していた、未来派の身体性に関する仮説である「機械化」に関しては、マリネッティによる文芸理論と戯曲テクストの分析を通じて、上記のようにある程度は進めることができた。ただ、当初の計画では、イーヴォ・パンナッジとヴィチーニョ・パラディーニによる『バレエ・メカニック』やデペーロが提唱した「造形演劇」など機械化した身体表象による舞踊芸術の実験、およびルッジェーロ・ヴァザーリが『機械の苦悩』や『ラウン』といった一連の作品で提起した身体の機械化に対する反措定までをも研究対象とする予定であった。これに関しては、コロナ禍の中でロヴェレートとベルリンでの現地調査や資料収集が叶わなかったことが主たる原因である。 また、同様の理由で現地調査ができなかったために、令和2年度に予定していた未来派の身体性に関するもう1つの仮説である「抽象化」に関しても、今年度においてもリカバリーが叶わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは令和2年度、令和3年度に研究を予定しておきながら未遂であったジャコモ・バッラのバレエのための舞台美術やエンリコ・プランポリーニの舞台装置などにおける身体の抽象性について、またイーヴォ・パンナッジとヴィチーニョ・パラディーニによる『バレエ・メカニック』やデペーロが提唱した「造形演劇」など機械化した身体表象による舞踊芸術の実験、およびルッジェーロ・ヴァザーリが『機械の苦悩』や『ラウン』といった一連の作品で提起した身体の機械化に対する反措定について、現地での資料収集や研究者との意見交換を通じて、研究を進めていきたい。 その後、当初の令和4年度の研究計画に立ち戻り、イタリアにおいて未来派演劇と並行して生まれていたグロテスク劇やピランデッロ劇における仮面のモチーフ、また、国外ではバウハウスの『三人組バレエ』やメイエルホリドの「ビオメハニカ」における身体性なども研究の射程に収めることで、未来派演劇と当時のヨーロッパ各地の前衛運動との相互の影響関係や多声的性質をも明らかにしたい。 今年度は本研究課題の最終年にあたるが、研究成果の整理および公開に関しては、進捗状況によっては来年度に予算を繰り越してまとめるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に予定していた3週間の海外出張がコロナ禍の影響で実施できず、その結果旅費の執行ならびに現地で購入予定であったドイツ語の一次資料の翻訳費用、研究協力者のプルーフリーディング費用といった人件費の執行もなかった。国内での文献調査の拡充に切り替えたこともあって物品費は当初計画を超えて執行したものの、次年度使用額が生じた。 令和4年度に現地調査ができる場合には、当初の滞在予定を若干延長する予定であり、また研究が順調に進めば、当初の予定にあった国際シンポジウムなどの規模を大きくして広く公開するために、これまでの予算の残額も活用したい。
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