研究課題/領域番号 |
20K00498
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小林 英起子 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (60571065)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ハンブルク演劇論 / レッシング / ディドロの演劇論 / 演技論 / ヴァイセ / 児童演劇 / 感動喜劇 / 作劇法 |
研究実績の概要 |
2020年度はレッシングの『ハンブルク演劇論』を研究の理論的支柱とし、その演劇論における演技論、喜劇論、悲劇論を検討した。その考察の中から論文「レッシングの『ハンブルク演劇論』における演技観」(『ドイツ語文化圏研究』(2021)第17号 p.1-19)を発表した。 レッシングの批評を手掛かりに初期啓蒙時代のザクセン喜劇に数えられるJ.E.シュレーゲルの喜劇と後期啓蒙時代のC.F.ヴァイセの喜劇の技法と感情描写の特徴を比較した。広島独文学会(2020年9月19日zoom開催)では中間成果を「啓蒙喜劇の作劇法の比較― J.E.シュレーゲルの『忙しげな怠け者』とC.F.ヴァイセの『貧乏と徳操』、『策略には策略を』を例に」と題して口頭発表をした。 日本演劇学会研究集会では、1775年から1779年頃の期間に道徳週刊紙「子どもの友」に掲載されたヴァイセ児童演劇の先駆的な作品に着目し、作劇法の特徴として素朴な性格描写と筋の簡素さ、善悪の強調、父親の視点からの躾、感動喜劇の傾向がみられる点を指摘した。(2020年11月15日zoom開催) ヴァイセ児童演劇24篇のうち12篇を解析した結果を「クリスチャン・フェーリクス・ヴァイセの児童演劇にみる作劇法」(「広島大学文学部論集」(2020)第80巻 所収)にまとめた。アジア・ゲルマニスト会議論文集に収められた拙稿では、ヴァイセ児童演劇では貧富の格差が見られるが、富裕な父親や子ども達が階層を越えて博愛精神を示し、貧しい子ども達の気高い振舞いが啓蒙思想を表現すると述べた。"Philanthropie in der Kinderwelt - Das Bild von Armut und Reichtum in C.F. Weisses Kinderschauspielen" In: Einheit in der Vielheit? (2020).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はパソコンと洋書の購入を中心に研究費を使用した。イタリアへの学会出張がコロナ禍の猛威により延期され、全国学会もオンライン開催に変更され、予定していた出張が全くできなかった。そんな中、資料解析を研究室で黙々と進めた。レッシングの『ハンブルク演劇論』における演技批評を、彼が影響を受けたリッコボーニ父子やサン-タルビーヌ、ディドロの演技論とも比較検討し、論文にまとめた。2021年度に予定していたレッシングにおけるディドロ演劇の受容に関する研究を早めに開始し、レッシングの喜劇や未完喜劇の作劇法の分析は来年度の課題へ移した。 啓蒙時代は喜劇が隆盛した時代であることから、初期啓蒙喜劇からレッシングの喜劇をはさんで後期啓蒙喜劇を俯瞰し、作劇法と感情描写の特徴を比較することにした。その足掛かりとなる研究成果を「啓蒙喜劇の作劇法の比較 ―J.E.シュレーゲルの『忙しげな怠け者』とC.F.ヴァイセの『貧乏と徳操』、『策略には策略を』を例に」と題して口頭発表し、活発な議論が続いた。(於 広島独文学会 2020年9月) 2020年のもう一つの大きな課題は、ヴァイセの児童演劇の作劇法の分析であった。予備的研究で収集した24篇の児童演劇のうち、その半数の作品を解析し、技法の特徴を整理して、日本演劇学会研究集会(2020年11月京都芸術大学)においてオンラインで口頭発表した。この研究に関心を持たれた参加者と活発な議論を行なった。その成果の一部は論文として広島大学文学部論集に掲載された。 コロナ禍のため2020年7月にイタリアのパレルモ大学で開催予定だったドイツ語学文学国際学会は1年後に延期となり、私の口頭発表も延期となった。ヴァイセの児童演劇における貧富の格差と子ども達に注がれる博愛精神についてまとめた拙稿が、12月に出版されたアジア・ゲルマニスト会議論文集に所収された。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年は、①レッシングの喜劇『ミンナ・フォン・バルンヘルム』や中期の未完喜劇、『賢者ナータン』の作劇法の分析を進めたい。1750年代から1760年代にかけてレッシングが残した断片喜劇やアウトラインのメモも丁寧に見たい。レッシングにおけるディドロ演劇の受容について分析をすすめ、昨年に続きレッシング喜劇のいくつかの翻訳作業も引き続き行う。 ②昨年に引き続き1760年代のヴァイセの代表的喜劇『アマーリア』『貧乏と徳操』『策略には策略を』『試される友情』を例に、ヴァイセの劇作術と感情描写の特徴を考察し、レッシングと比較する。18世紀では劇作仲間がふつうに模倣しあうことがあった。ヴァイセの喜劇『エフェズスの老貴婦人』をレッシングは模倣してみたが未完にとどまっている。レッシングとヴァイセの同じ題名の喜劇や感傷的な戯曲も作劇法を比較する。 ③コロナ禍の影響により延期となっていたドイツ語学文学国際学会が7月にイタリアのパレルモ大学で開催される。私は日本演劇学会で発表以後の新たな研究成果を加えて、クリスチャン・フェーリクス・ヴァイセの児童演劇の技法と啓蒙のユートピアについて研究発表をすることになっている。さらに今年はヴァイセの児童演劇の中から、10代半ばの当時のヤング・アダルト向けに書かれた1780年前後の作品に注目して解析し、ドラマの技法と博愛精神およびユートピア思想を中心に分析してみる。その成果は日本独文学会等で発表したい。 コロナ禍の影響で学会や研究発表会が延期されたり、オンライン開催に変更を余儀なくされている。洋書の取り寄せにも長い時間を要している。国内の大学図書館での対面での文献収集も容易にはできないが、一次文献のデジタル公開が進んでいるドイツの図書館のwebサイトも積極的に利用して、研究の不自由さを少しでも克服したい。今回の成果をドイツ語圏へ向けて発信したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響による緊急事態宣言や特別警報等で、全く出張ができなかった。国際学会が1年後に延期されたり、全国学会、地方学会もオンライン開催となり、移動しての研究活動ができず旅費を使うことがなかった。令和3年度後半にコロナ感染が収束に向かった場合には、文献収集の旅や外国での研究活動を展開したい。
|