研究課題/領域番号 |
20K00498
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小林 英起子 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (60571065)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 児童演劇 / クリスチャン・フェーリクス・ヴァイセ / 『ハンブルク演劇論』 / ゴットホルト・エフライム・レッシング / 啓蒙喜劇の作劇法 / 感動喜劇 |
研究実績の概要 |
2021年度はC・F・ヴァイセの児童演劇・青少年演劇および代表的喜劇『アマーリア』『策略には策略を』『貧乏と徳操』の劇作術の特徴を調べた。啓蒙時代初期のJ.E.シュレーゲルの喜劇『忙しい怠け者』(1743)と啓蒙時代後期のヴァイセの『アマーリア』(1765)の作劇法を比較した。前者はザクセン類型喜劇に属し、主人公の極端な性癖や弱点を描き、悪徳に対する嘲笑を誘うことで観客を教化しようとする。ヴァイセの劇はこうした手法を脱し、主人公の徳と寛容な心が人間を改悛させ幸福な結末へ導く。人物の感情表現が増え、諷刺的類型喜劇の手法による嘲笑は姿をひそめ、人物の美徳を称え感動させて、観客の涙を誘う感動喜劇に変化する。この比較は論文「啓蒙喜劇の作劇法をめぐる比較考察 ― J.E.シュレーゲルの『忙しい怠け者』とC.F.ヴァイセの『アマーリア』を例に」(『ドイツ文学論集』54号、p.21-35)にまとめた。 レッシングおよびヴァイセ周辺の劇作家の喜劇も検討した。レッシングとヴァイセと交流があったノイバー夫人の序幕と喜劇の作劇法を調べ、論文「フリーデリケ・カロリーネ・ノイバーの序幕と喜劇におけるアレゴリーと娯楽性」(『広島ドイツ文学』34号、p.63-78)にまとめた。 啓蒙時代後期のヴァイセの児童演劇・青少年演劇は、ドイツ演劇史でも先駆的な試みでありその作劇法を調べた。イタリアのパレルモ大学で行なわれたドイツ語学文学国際学会(IVG, 2021年7月28日zoom開催)において、"Dramentechnik und utopische Aufklaerung in den Kinderschauspielen Christian Felix Weisses"と題する口頭発表をした。広島独文学会(2022年3月19日zoom開催)では「C.F.ヴァイセの青少年向け演劇にみる劇作術」と題する口頭発表をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の事態が続き、予定した国内外への学会出張ができなかった。洋書の納品に2,3か月を要し、手元にある資料の解析を研究室で進めた。 ヴァイセの代表喜劇や児童演劇・青少年向け演劇の研究に率先して取り組んだ。彼の喜劇『アマーリア』の作風を、啓蒙時代初期のJ.E.シュレーゲルの諷刺的類型喜劇『忙しい怠け者』の技法と比較考察した。(『ドイツ文学論集』54号、p.21-36) レッシングおよびヴァイセと交流があったノイバー座主宰ノイバー夫人の序幕や喜劇に着目し、啓蒙時代初期の舞台事情や彼女の序幕や祝祭劇の世界と作劇法を検討した。『広島ドイツ文学』34号、p.63-78)ノイバー夫人の祝祭喜劇にはバロック劇やハウプト・ウント・シュターツアクツィオーンの名残が見られ、牧人劇の形式による喜劇が彼女の傑作へ発展した系譜を明らかにした。 1年遅れで開催されたドイツ語学文学国際学会(zoom開催)では、ヴァイセ児童演劇から主要作品7篇を取り上げ、"Dramentechnik und utopische Aufklaerung in den Kinderschauspielen Christian Felix Weisses" と題してドイツ語で口頭発表をした。作者は喜劇の作劇法を駆使し児童向けにエピソードが一つの短い一幕物を量産している。子どもが大人のような感動的な台詞を語り、苦境にある家の子ども達に富裕層の父親が施しをする、一種の子どもの理想郷が見られる。広島独文学会では「C.F.ヴァイセの青少年向け演劇にみる劇作術」と題する口頭発表をした。 初期啓蒙喜劇の研究に時間をとられ、レッシングの喜劇『ミンナ・フォン・バルンヘルム』や断片喜劇『善人ナータン』や未完喜劇の作劇法の研究が遅れ、次年度へ持ち越した。レッシングの喜劇『ユダヤ人』『女嫌い』を日本語に翻訳した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、①1750年から1760年代におけるレッシングの断片喜劇と、同じ題目のヴァイセの喜劇『エフェズスの老貴婦人』や他の感傷的な喜劇の作劇法の比較をする。18世紀では劇作仲間がふつうに模倣をしあっていた。 ②レッシングの喜劇『ミンナ・フォン・バルンヘルム』、劇詩『賢者ナータン』、断片喜劇『善人ナータン』、啓蒙時代中期の未完喜劇の作劇法を分析する。レッシングは何度も喜劇の構想を立てるが、喜劇の発表がない時期がある。断片喜劇やアウトラインのメモも丁寧に見たい。大衆の嗜好に目を向けた多作なヴァイセと、推敲を綿密に重ねたレッシングの姿勢を比較したい。また、レッシングが翻訳した『ディドロ氏の演劇』を参考にして、レッシングおよびヴァイセや周辺の劇作家の喜劇をディドロの演劇論の観点から検討する。ディドロが唱えた、悲劇と喜劇の中間にあたる「まじめなジャンル」がレッシングの演劇作品ではどのように展開したかを確かめる。 ③レッシング時代の劇作家と俳優の協力関係、俳優による舞台化の実情と受容の調査研究。『ハンブルク演劇論』の舞台批評と俳優論を検討し、当時の演劇新聞の劇評も参照する。レッシングとかかわった俳優の自伝書や劇団の上演記録や演劇綱領を参照する。啓蒙時代後期にドイツ演劇の水準が向上した背景に、文学の舞台化を手がけた俳優達の懸命な努力があったことを調べたい。 コロナ禍だが渡航許可を得られたならば、バイエルン州立図書館やヴォルフェンビュッテルの図書館で文献調査したい。渡航できなければ、東京の国会図書館や国内所蔵の文献も粘り強く探し、時間をかけてデジタル調査をする。 日本独文学会、日本演劇学会、関連する分科会などで成果を発表したい。6月に日本演劇学会全国大会で研究発表をすることが決まっており、広島市の高等学校でも講義をする予定である。レッシング喜劇を翻訳中で、出版を模索している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響によって緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が長期間続き、全く出張ができなかった。1年延期された国際学会もワクチン接種がまだ始まっていない日本からは渡航できない事態となり、オンライン参加に切り換えた。全国学会、地方学会もオンライン開催となり、移動しての研究活動ができず、旅費を使うことがなかった。しかしながら、令和4年度後半に新型コロナ感染がおさまりをみせた場合は、ドイツでの文献収集と研究活動を展開させたい。
|