研究課題/領域番号 |
20K00499
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福元 圭太 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (30218953)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リヒャルト・ゼーモン / ムネーメ理論 / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの学術研究において等閑視され、ほとんど忘却されてきたドイツの生物学者リヒャルト・ゼーモンの、記憶に関する理論、いわゆる「ムネーメ理論」の意義と重要性を解明するという目的をもつ。今年度は本研究の第一段階として、フェヒナー、ヘッケル、ドリーシュに関する著書の中で、ゼーモンとエルンスト・ヘッケルとの師弟関係、ドーキンスの「ミーム理論」とゼーモンの「ムネーメ理論」の類似性と、後者が前者の影響によって成立したのではないかという推測、ならびにアビ・ヴァールブルクの記憶という壮大な宇宙のイコノロジーである「ムネモシュネ・アトラス」にゼーモンが与えたインパクトに関する予備的な考察を、注釈の一つとして詳述した。 「ムネーメ理論」については、本研究が本邦で初めて詳しく紹介する予定であったが、申請者のまったく知らないところで関心を持っていた出版社があり、2020年の10月に岩波書店から「名著精選」シリーズの一環として『無意識と記憶 ゼーモン/ゴールトン/シャクター』という本が刊行され、そこでゼーモンの主著の一部が抄訳されていた。これは、実に喜ばしいことではあるが、一歩先を越されてしまったという大きな喪失感も覚えた。幸いなことに岩波版の翻訳は原文に忠実な正確なものであり、参照するに値する仕事であると思われる。この翻訳を吟味し、熟読してゼーモンの「ムネーメ理論」の概要を把握しえたことも、今年度の成果のひとつである。 なお今年度に申請者はドイツ連邦共和国に出張し、ゼーモンの伝記的・学問的資料を収集してくる予定であったが、科研申請時にはその存在すら確認されていなかったCovid19の世界的蔓延に伴い、海外はおろか国内での出張すらかなわず、もっぱら国内ないし海外からの書籍資料の取り寄せによって、ゼーモンの生涯と業績を再構成する作業を続けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究業績の概要」に記したように、今年度に申請者はドイツ連邦共和国に出張し、ゼーモンの伝記的・学問的資料を収集してくる予定であったが、科研申請時にはその存在すら確認されていなかったCovid19の世界的蔓延に伴い、海外はおろか国内での出張すらかなわず、もっぱら国内ないし海外からの書籍資料の取り寄せによって、ゼーモンの生涯と業績を再構成する作業を続けているため。
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今後の研究の推進方策 |
国内ないし海外からの書籍資料の取り寄せによって把握しえたゼーモンの伝記的事実を吟味し、「波乱に富んだ」と形容して差し支えないゼーモンの生涯を活字にまとめる予定である。 また2020年の10月に岩波書店から刊行された「名著精選」シリーズの一環である『無意識と記憶 ゼーモン/ゴールトン/シャクター』に紹介されているゼーモンの主著の一部を補足しつつ、ゼーモンの「ムネーメ理論」の概要を示すことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰り返し記述しているように、科研申請時には予測不可能であったCovid19の世界的蔓延により、2020年度に予定していたドイツ連邦共和国への海外出張が不可能になり、出張を2021年度ないし、コロナ状況の終息具合次第では2022年度以降に延期しなければならなくなったため、次年度(ないしそれ以降)使用額が大幅に生じた。
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