本年度は主に以下の3点について研究した。 一点目は、導入期の日本のシュルレアリスムがどのような思考と方法で、欧米から投げかけられがちなエグゾチスム的憧憬のこもったイメージへの自己同化を免れえたかという、本研究の全般的な問いに一定の答えを出すための研究である。具体的には、導入初期に見られた導入のありかたとその特徴を精査し、特にそのなかの「理論志向」に注目し、その内容を精査した。対象作家としては、西脇順三郎、瀧口修造に比べ、この面で注目されることの極端に少ない上田敏雄の重要性を示すべく、彼が中心となって起草された、日本のシュルレアリスム宣言というべき「A NOTE DECEMBER 1927」ほか、彼の著作を分析した。以上の研究からは、日本語とフランス語の2本の論文を執筆した。ただしフランス語論文については、掲載予定の研究誌(フランス)の出版計画の調整の影響で、刊行予定日未定となっている。 二点目は、第二次世界大戦前よりシュルレアリスムの影響を受けた詩人のなかでも、そのテーマの現代性や、自然観・世界観の表現方法の斬新さから、さらに研究を深め、またその作品を海外にも広く紹介する必要を感じている永瀬清子、江間照子という二人の詩人の作品を分析した。また特に永瀬清子については、その作品にも影響を与えた岡山県の熊山に残る住居を訪れ、その土地と風土と作品との関係について考察した。 三点目は、第二次世界大戦後を含め、ともにシュルレアリスムの影響を受けた日本の詩人とフランスの詩人の間で行われた相互交流が互いの作品に与えたインパクトを探るために、ジュリアン・グラックに関する資料が保存されている彼の生家を訪ね、資料を閲覧した。また彼らの交流の実態をご存知の複数の方にインタビューを行った。
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