最終年度には、これまでの研究を踏まえ、精霊譚を分析して詩人や読者が自然をどのように捉えていたのかを考察し、ドイツの博物学者が行った探検とその成果を調査した。 「精霊(Geist)」は自然を擬人化したものであると捉え、地・水・火・風という自然の四大元素の擬人化として、地の精、水の精、火の精、風の精をテーマにした作品を取り上げ、複数の作品を分析して、啓蒙主義の行き渡った時代にあらためて精霊譚が脚光を浴びた理由を考察した。 探検博物学者については旅行記を記した三人の人物に着目した。一人目はゲオルク・フォルスターであり、十代のとき父と共にイギリスのクック船長が指揮する第二回航海に参加して『世界旅行記』を英語で出版した後、ドイツで活躍した。二人目のアレクサンダー・フォン・フンボルトは私費で南北アメリカ大陸を探検し、その成果を旅行記や講演などで発表し、科学界に貢献した。三人目のアーデルベルト・フォン・シャミッソーはフランスからプロイセンに亡命した貴族であり、ロシアの航海事業に参加した後、ベルリンの植物園に勤めた博物学者である。本研究では彼らの旅行記を読み解き、その後の活動を踏まえて、彼らが自由主義的な考え方を抱くようになった経緯を明らかにした。 文学作品に見られるメスメリズムの影響やホムンクルスのイメージといった自然の不思議に関するこれまでの研究を含めて、『詩人たちの自然誌―一九世紀初頭ドイツ語圏の文学と科学ー』(仮題)として著書に纏めたところである。
|