本研究は、現在の中欧文化研究においてR・ムージルのカカーニエン概念を適用することの妥当性を、ムージル文学の主要概念である「特性のなさ」を分析しつつ検証するものである。当初の予定ではムージルと同時代のユダヤ系作家の思想とムージルの主要概念とを比較しつつ研究を進める予定だったが、2020年以降のコロナ禍の影響で思うような資料収集と研究活動ができなかった。そのため、すでに資料の揃っている1920年代のムージル作品(特に『三人の女』)や『特性のない男』の草稿調査を中心とした研究に切り替え、「特性のなさ」という概念が形を成すまでの思想的変遷を主に作品生成論的に分析し、研究成果を論文や口頭発表で公表した。
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