最終年度となる本年度は、前年度末に特別閲覧したフローベールの幻の初期のNovembre『十一月』の草稿をRouenのフローベール医学博物館で再度閲覧調査するとともに、転記・解読を発表したLes Memoires d’un fou『狂人の手記』と合わせて作家の初期・中期の自伝的作品を中心に多角的に分析を進めた。 11月には、米国ボルチモアで開催された米国ジョンズ・ホプキンス大学でのNineteenth Century French Studies国際会議(Passage : Metamorphoses d’un avant-siecle) における口頭発表で自伝文学の観点からゲーテとの間テクスト性を分析し、ドイツロマン主義の影響と差異を明らかにした。また中期の『十一月』と円熟期の『感情教育』との文体の影響関係について、従来、未完成な実験的作品小説ととらえられていた『十一月』においてすでにフローベール的文体が形成されていたことを未公開資料とともに『ステラ』(九州大学文学部紀要)に発表した。 ファム・ファタル研究に関しては、9月にベルトラン・マルシャル名誉教授(ソルボンヌ大学)を日本学術振興会フェローシップにより本に招聘し日仏会館で司会・討論をした際に、フローベールのサロメに多大な影響を与えたオリエントの踊り子クチウク=ハーネムと初期作品の『十一月』の関係及びサロメと文体の問題を深めた。 またエリック・ル・カルヴェズ教授(アトランタ大学)と共に14本の『聖アントワーヌの誘惑』新共同論集を編集し、作品の出版150周年記念としてRouen大学フローベール研究所の新サイトに出版すると共に、初期から後期まで続くファム・ファタル的表象である「シバの女王」に関する草稿研究を発表することができた。
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