研究課題/領域番号 |
20K00511
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研究機関 | 平安女学院大学 |
研究代表者 |
高橋 義人 平安女学院大学, 国際観光学部, 教授 (70051852)
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研究分担者 |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
宮田 眞治 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70229863)
細見 和之 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (90238759)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神の死 / ゲーテ / リヒテンベルク / アメリカ発見 / 宗教改革 / 望遠鏡 / ファウスト / 遍歴時代 |
研究実績の概要 |
H・アレントによれば、近代の出発を特徴づけるものは3つある。アメリカの発見、宗教改革、望遠鏡の発明の3つである。アメリカの発見後、植民地の獲得を目指して躍起になった西欧諸国は奴隷制度と人種差別を生んだ。宗教改革後、土地を喪失する人々が急増し、人々の宗教心は薄らいだ。望遠鏡の発明とともに近代科学が生まれ、地動説によって地球は世界の中心の座から転落した。 あまり知られていないが、ゲーテはこれら三者と真剣に取り組んだ。それは特に『ファウスト』第二部と『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』に顕著である。コロナ禍のため、実際に集まることはできなかったが、本科研チームは2-3か月に一度、オンライン研究会を開き、主にゲーテの『ファウスト』と『遍歴時代』、ゲーテの同時代人だったリヒテンベルクの科学観について発表と討議を行った。 『遍歴時代』の主題のひとつはレナルドのアメリカ移住にある。近代科学の誕生に随伴して起きた産業革命によって糸紡ぎに代表される平和な手工業の世界が失われてしまったことを憂い、レナルドは移住を決意する。産業革命の是非、アメリカ移住にともなう「故郷喪失」という問題がこの小説で問われている。コペルニクスの地動説登場後、カントやヘーゲルも宇宙について論じているが、実際に望遠鏡を用いたわけではない。ところがゲーテはイェーナ大学天文台監督官を兼務し、実際に望遠鏡で宇宙を観察している。宇宙に対するゲーテの関心の高さは『遍歴時代』のマカーリエに窺見できる。他方、ゲーテは、地動説によって人間が自分の感覚を信用しなくなることに対する強い懸念を抱いた。 アメリカの発見、宗教改革、望遠鏡の発明。この三者が人々を大地から疎外させ、さらには人々から信仰心を奪った。「神の死」は近代の歩みのなかで起こるべくして起こった。今回のコロナ禍も、じつはこうした近代が招来した出来事のひとつだったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、オンライン研究会にせざるをえなくなった。オンライン会議だと少ししか発言しない人が多いが、人数が少ないせいか、この科研オンライン研究会ではみなが積極的に発言し、とても盛り上がった。滅多に経験できないような盛り上がりだった。 盛り上がったのは、ひとつにはコロナ禍のためだった。本研究会のテーマは「神の死」にあるが、コロナ禍の現在はまさに神が死んだ時代ではないか。参加者たちはその切実な思いに駆られていた。 コロナ禍でなければ、京都大学と東京大学で交互に開催したいと思っていた。両大学には見たいと思う文献が多数あるからだ。その願望は達せられなかったが、オンラインでもけっこう本音を聞くことができ、お互いに研究を大いに促進された。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度にはゲーテ、リヒテンベルクをしたので、次はニーチェ、さらにその次はデュレンマット、そしてブルガーコフの番である。ゲーテを踏まえながら、これらの哲学者・文学者についての考察を深めたいと思う。2020年度にはゲーテの『ファウスト』に見られる「神の死」について討究したが、参加者からは、ゲーテの見解がこれほどニーチェに近いとは思わなかった、という声が聞かれた。興味深いことだった。次回は、ニーチェがどれほどゲーテに近く、またどれほど遠いか、についてみなで検討したいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、国際学会や国内学会が延期になってしまい、海外出張や国内出張ができなくなってしまったため。コロナ禍が収まり、学会がまた開催されるようになったら、そこで使用する。
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