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2021 年度 実施状況報告書

ファウスト文学に見る「神の死」の系譜

研究課題

研究課題/領域番号 20K00511
研究機関平安女学院大学

研究代表者

高橋 義人  平安女学院大学, 国際観光学部, 教授 (70051852)

研究分担者 増本 浩子  神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
宮田 眞治  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70229863)
細見 和之  京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (90238759)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードファウスト / 神の死 / 産業革命 / ゲーテ / ニーチェ / ヴィーラント / トーマス・マン / デュレンマット
研究実績の概要

本研究の目的は、ゲーテ以降の「ファウスト」文学の系譜に即し、ヨーロッパで神がいかに死んだかを明らかにすることにある。
取り上げられたテーマは以下のものである。①ゲーテ時代のドイツ産業革命とそれに伴う人間の大地からの疎外(非人間化)はいかにして起きたか(担当高橋)、②リヒテンベルクとゲーテ(担当宮田)、③ヴィーラントとゲーテ(担当宮田)、④ニーチェと神の死(担当細見)、⑤トーマス・マン『ファウストゥス博士』と神の死(担当高橋)、⑥デュレンマットの『ファウスト』(担当増本)。
2ヵ月に一度、オンラインで1名が発表を行い、他の3名がそれについて論評を加えるという形で実質豊かな研究を行った。折しもコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻が起き、本研究は、現代社会では神の死のみならず人間の死がいかに起きるかを検証する場になった。リヒテンベルクやヴィーラントの時代には「神の死」はまだほとんど意識されていなかった。だがリヒテンベルクやヴィーラントと同時代であるゲーテは、彼らよりも強い危機意識を持っていた。その危機意識は産業革命の波がドイツにも押し寄せてくるとともに、より強められた。彼はさらに、キリスト教的な神、単に道徳的なお説教を垂れるだけの神では危機の時代に対応できないと見ていた。ゲーテの予感は的中し、ゲーテの死の50年後、ニーチェは、神はすでに死んだ、と看破した。生を肯定し、生の力を賛美するニーチェからすれば、生を否定するキリスト教は衰微して当然である、ところがキリスト教的な神が死んでみると、そこに新しい神は存在せず、後に残されたのは空白の虚無であることが明らかになった。
その虚無の時代をいかに生きるか。それがニーチェ以降の人々に課せられた大きな課題だった。その課題と果敢に立ち向かい、トーマス・マンは『ファウストゥス博士』を書き、デュレンマットはゲーテの『ファウスト』を演出し上演した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コロナ禍でみなが一堂に会して研究会を開くことはできなくなったのは残念だった。対面での研究発表会には、発表者は他の参加者の反応を見、映像の資料(『ファウスト』上演のビデオ資料など)を提示できるというメリットがあった。当初は国際会議に参加する予定であり、国際会議に出れば、自分の発表が海外でも通用するか、直接に確かめることができた。ところがオンライン研究会では雑談時間も少なくなり、他の「人格」に直接的に触れることも、国際感覚を磨くこともできなくなってしまった。にもかかわらず、パワーポイントを使って、オンラインでも発表内容をかなりよく伝えることができたし、研究会で取られる時間も4時間ほどになり、みなの都合を合わせやすくなり、研究は順調に進んだ。

今後の研究の推進方策

今年度はいよいよ、どういった人々がいかに神を殺したか、という議論に入る。神を殺したのは、ひとつにはキリスト教的な「生の迫害」に抗議し、「生の促進」をもたらしてくれるような、より人間的な神概念を主張した人々、すなわち汎神論者だった。もうひとつは、キリスト教は体制側であると考え、反体制の立場に立った人々だった。このなかには無神論者も含まれる。具体的に取り上げるのはゲーテ、ハイネ、ゲルハルト・ハウプトマン、ブルガーコフである。特にハウプトマンとブルガーコフは反体制の人々の気持ちをよく理解していた作家であり、彼らの汎神論や「ファウスト」劇が向かった先は、現代の行く末すら暗示しているであろう。

次年度使用額が生じた理由

国際学会参加のため、また学生アルバイトにデータ入力を手伝ってもらうつもりだったが、コロナ禍のためどちらもできなかった。次年度に国際学会が対面で行われるかどうか、日本からヨーロッパへの出張ができるかどうかは分からないが、学生アルバイトのデータ入力手伝いはしてもらいたいと思っている。

  • 研究成果

    (25件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 4件) 図書 (4件)

  • [雑誌論文] 失われた江戸を求めて――永井荷風の反近代の足跡2022

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 雑誌名

      平安女学院大学研究年報

      巻: 22 ページ: 1-14

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 映画『ショアー』のなかのイディッシュ・リート2022

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      びーぐる

      巻: 54 ページ: 24-27

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ファウストと大地からの疎外――ゲーテはコロナ・パンデミックを予見していたか2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 雑誌名

      モルフォロギア

      巻: 43 ページ: 2-21

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ベンヤミンにとってのボードレール2021

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      びーぐる

      巻: 53 ページ: 46-59

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 菅野賢治『「命のヴィザ」言説の虚構』評2021

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      図書新聞

      巻: 3518 ページ: 8

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ミハエル・グルエンバウム/トッド・ハサク=ロウィ『太陽はきっとどこかで輝いているはず』評2021

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      読書人

      巻: 3405 ページ: 5

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 大橋毅彦『D・L・ブロッホをめぐる旅』評2021

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      ナマール

      巻: 26 ページ: 98-100

    • 査読あり
  • [雑誌論文] マルティン・ブーバー「判決」2021

    • 著者名/発表者名
      細見和之
    • 雑誌名

      イリプス

      巻: Ⅱ-35 ページ: 146-151

    • 査読あり
  • [雑誌論文] デュレンマット作品におけるファウスト的人物像―喜劇『加担者』を 中心に2021

    • 著者名/発表者名
      増本浩子
    • 雑誌名

      DA

      巻: 15 ページ: 29-42

    • 査読あり
  • [学会発表] 危機に瀕した日本文化とその行く末2022

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      日本文化創出研究会
  • [学会発表] 新京極、円山公園、花見小路――今日の京都はいかにつくられたか2022

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      KGF36
    • 招待講演
  • [学会発表] WielandともうひとつのAntike(1)2022

    • 著者名/発表者名
      宮田眞治
    • 学会等名
      科研オンライン研究会
  • [学会発表] WielandともうひとつのAntike(2)2022

    • 著者名/発表者名
      宮田眞治
    • 学会等名
      科研オンライン研究会
  • [学会発表] ファウストと大地からの疎外――産業革命から新型コロナへ2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      ゲーテ自然科学の集い
    • 招待講演
  • [学会発表] ゲーテとコロナ――産業革命から大地疎外へ2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      平安女学院大学観光研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 経済か文化か――敬愛する故長尾真先生の発言集をもとに2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      日本文化創出研究会
  • [学会発表] 京都 水と緑の都2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      教員免許更新講義
    • 招待講演
  • [学会発表] 文化首都としての京都を考える2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      日本文化創出研究会
  • [学会発表] ゲーテ的調和の時代はつとに去り――トーマス・マン『ファウストゥス博士』2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      科研オンライン研究会
  • [学会発表] 現代における文化と文明2021

    • 著者名/発表者名
      高橋義人
    • 学会等名
      日本文化創出研究会
  • [学会発表] 進歩・知識欲・人間 について ―リヒテンベルクの考えていたこと2021

    • 著者名/発表者名
      宮田眞治
    • 学会等名
      科研オンライン研究会
  • [図書] 「日本文化創出を考える」研究会2021年度報告書2022

    • 著者名/発表者名
      西本清一・高橋義人他
    • 総ページ数
      64
    • 出版者
      国際高等研究所
  • [図書] 現象学 未来からの光芒――新田義弘教授追悼論文集2021

    • 著者名/発表者名
      川本英夫・高橋義人他
    • 総ページ数
      280
    • 出版者
      学芸みらい社
    • ISBN
      4909783725
  • [図書] 消えたヤマと在日コリアン2021

    • 著者名/発表者名
      細見 和之、松原 薫、川西 なを恵
    • 総ページ数
      88
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      4002710467
  • [図書] 対論Ⅲ(2016~2020)2021

    • 著者名/発表者名
      細見 和之・山田 兼士
    • 総ページ数
      288
    • 出版者
      澪標
    • ISBN
      4860785215

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公開日: 2022-12-28  

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