研究課題/領域番号 |
20K00512
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
長谷川 晶子 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (20633291)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / アンドレ・ブルトン / ハイチ / エクトル・イポリット / ヴードゥー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヨーロッパの芸術運動であるシュルレアリスムが、ハイチにおける民間宗教や人々の生活と深く結びついた芸術のあり方にヒントを得て、第二次世界大戦後の活動を展開させたという仮説を証明することである。 そのために初年度である2020年度は、ハイチを訪れたシュルレアリスムの文学者と画家がハイチの芸術と宗教をどのように受けとめ、どのように理解したのかを解明する調査を行うことから始めた。ハイチやアメリカでの調査を実施できなかったため、国内にいながらも入手できる資料(冒険家ウィリアム・シーブルックや民族学者アンドレ・メトローをはじめ、ブルトン、マビーユ、ラムが参照したと考えられる旅行記や民族誌の研究成果)の収集と調査を行った。 並行して、第二次世界大戦中に北米や南米に亡命していたシュルレアリストたちが戦後パリに戻った直後に企画した「1947年のシュルレアリスム」展において、彼らがハイチで得た知識をどう活かしたのかを明らかにするため、「1947年のシュルレアリスム」展カタログを精密に調査した。この展覧会は戦後のシュルレアリスムの新機軸「新しい神話」を観客が自分で解釈して創造するように構成されており、イニシエーションにも似た経験を通じて、観客は生活と融合した芸術としてのシュルレアリスムの活動に加わる。この展覧会のカタログの分析を通じて、ヴードゥー教からの影響の射程を明らかにしようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度にあたる2020年度は主に以下の3つの研究を行った。 第一に、1947年から50年あたりのハイチにおける芸術や宗教の実践に関する研究を進めた。ブルトン自身が書いた「跳ね橋」(1962年)のみならず、ウィリアム・シーブルック『魔法の島 ヴードゥーの土地ハイチにて』(1929年)、ゾラ・ニール・ハーストン『ヴードゥーの神々』(1938年)、民族誌のアルフレド・メトロー『ハイチのヴードゥー教』(1958年)などからブルトンが訪れたときのハイチの状況やハイチに関する知の状況を出来る限り再構成した。 第二に、1947年の展覧会「1947年のシュルレアリスム」におけるヴードゥー教の祭司でもあったとされる画家エクトル・イポリットを中心に、ハイチのヴードゥー教のイメージ制作や儀式に関する調査を行った。当初2020年の夏にはハイチに調査に赴くことを計画していたが、新型コロナのパンデミックのため延期を余儀なくされた。そのため、Haitian Art Societyの出版したMystical Imagination. The art of Haitian master, Hector Hyppoliteなどの限られた資料を用いて、研究を進めた。 第三に、ヴードゥー教がシュルレアリスムに及ぼしたと思われる影響を明らかにするため、「1947年のシュルレアリスム展」のカタログの詳細な分析と展覧会の調査を行った。この展覧会のカタログで冒頭に掲げられているがハイチの画家エクトル・イポリットの作品である。この展覧会におけるイポリットの役割に関して考察をしている。 これらの研究の成果は、次年度にまとめて研究論文として発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度である2021年度は、以下の二点に絞って研究を行うつもりである。 第一に、これまでに研究がほとんどされていないハイチの画家エクトル・イポリットに関する調査である。初年度の研究を通じて、シュルレアリスム運動の理論的指導者ブルトンにとって、この時期、イポリットが特別な存在であった可能性が高いことを明らかにした。この画家の絵画や生き方などをさらに調査することで、その理由を明らかにする。 第二に、第二次世界大戦中にニューヨークに亡命したシュルレアリストたちのニューヨークにおける活動に関する調査である。特にニューヨークで活動していたメンバーたちの間で、いわゆる「素朴派」に対する関心が急激に高まった。この傾向に対してニューヨークの画商シドニー・ジャニスが与えた影響も無視できないが、彼らの活動を調査することでそれ以外の要因を明らかにしたい。そのうえで、いわゆる「素朴派」とハイチの芸術の評価に関連があるのかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のパンデミックのせいで、ハイチやアメリカでの調査を実施できなかった。そのため、次年度使用金額が生じている。初年度は、旅費の代わりに、研究をより効率的に進めるため新しいいPCを購入し、国内にいながらも入手できる資料の収集と調査から始めた。また渡航が可能になるだろう最終年度に、当初予定したよりも長い期間、ハイチとアメリカに調査に赴くための旅費の計上を行う予定である。
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