研究課題/領域番号 |
20K00513
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
橋本 知子 立命館大学, 言語教育センター, 非常勤講師 (60625466)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フランス / 文学 |
研究実績の概要 |
19世紀フランス文学における「幻」の多様性を分析するにあたり、当該年度は、19世紀フランスにおける科学主義の進展と、写実文学作品におけるその影響について、ギュスターヴ・フロベールの作品に特化し、再考することにした。論点としては、フランス19世紀前半におけるスピノザとルクレティウス受容のあり方、および、そうした哲学的事項に対するフロベール特有の理解のあり方、の2点を主軸とした。こうした問題について、『聖アントワーヌの誘惑』の異なる複数の版を主要テキストとして取り上げ、この作家が独自の方法でどのように古代哲学および近代哲学を理解していたかという点、さらに、そうした作家自身の理解がどのように文学作品において実践として現れているかという点について、分析を行った。こうした点に即して、『聖アントワーヌの誘惑』の決定的場面であるラストシーンがもたらす多義的な解釈と可能性について先行研究に即し検討すると同時に、そうした従来の捉え方とはまた別の読みの方向について提案した。具体的には、小説冒頭および結末に顕著となる時間性の問題、哲学的見地からした動物と生命の問題、作家の東方旅行と同時代の文学潮流との相違点などの主題について分析を行った。 19世紀における作家の哲学理解については先行研究の蓄積が豊富であり、フランスでもここ近年さらなる更新がなされている。そうした先行研究を踏襲しつつ、その上で同作品の「幻」にこめられた両義性に対する新たな読解を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『聖アントワーヌの誘惑』の異なる版(1849年版および1874年版)について、日本の大学で発行されている雑誌にフランス語論文を執筆した。 またフランスの国際学会にて口頭発表を予定していたが、コロナ禍により学会自体が中止となった。フランス語による論文集は刊行されるため、後日成果発表を行える予定である(現在印刷中の段階)。
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今後の研究の推進方策 |
対象とするテクストを拡大し、改めて「幻」の多義性を分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスにて開催される国際シンポジウムにて口頭発表を行う予定であったが、コロナ禍により国際シンポジウム自体が中止となった。さらに日本国内にて開催予定のフランス語フランス文学会全国大会は、春季、秋季ともにオンライン上での開催へと変更になった。以上により予定していた旅費を執行しなかったため次年度使用額が生じる結果となった。 コロナ禍の影響については予測不可能であるため、海外出張が依然として困難となる場合には、そのために予定されていた額を書籍購入として使用する計画である。
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