今年度は最終年度として、これまでの調査を踏まえつつ二〇世紀日本における『ローランの歌』の大きな流れを提示することを念頭に置きながら、複数の論文執筆・研究発表を行なった。さらに年度末にはフランスから若手研究者を招聘して国際セミナーを開催した。 年度前半においては、フランスでは「勝利」を扱った作品とされていた『ローランの歌』が、いかに日本で「敗北」や「滅び」の文学として紹介されるに至ったかを、主として戦前・戦中に日本で出版されたフランス文学史などを検討して明らかにした。このテーマについてはすでに英語で論文を執筆し、現在その査読の結果を待っているところである。 また年度後半においては、二十世紀を通じて日本でいかに『ローランの歌』が少年少女向け文学として受容されたかを明らかにした。この作品の少年少女向け翻案・紹介はとくに一九五〇年代および一九六〇年代に多数出版されるが、それらを概観することで日本での『ローランの歌』受容の大きな流れを効果的に可視化することができた。この成果もまた論文として近く出版される予定である。 さらに年度中盤にはローザンヌ大学で開催された夏期講習に講師として参加し、複数の発表を行った。また年度後半には広島大学において集中講義を行い、本研究課題の成果を授業として若い学生たちに還元することができた。加えて年度末にはフランスの若手研究者を招聘してセミナーをハイブリッド開催し、多くの参加者と本研究課題を巡る諸問題を共有・討議することができた。
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