研究実績の概要 |
本研究は、阮攸が1813年から1814年にかけて中国北京に赴きそして帰国した際の、往復のルートについて、彼が残した『北行雑録』という漢詩集および現地調査に基づきながら実証的に検証し、彼が臨安に立ち寄ったとされる従来の説とは異なるルートの実証的な解明を目指すものである。 しかしながら、新型コロナの影響で、海外渡航が不可能となり、予定していた中国、ベトナム、フランスでの調査ができないまま2年が経過することとなってしまった。 その分、日本にいながらできることととして、ベトナムにおける漢文学、中国文学の影響についての研究を進め、武田雅哉 , 加部勇一郎 , 田村容子 (編)『中国文学をつまみ食い』, ミネルヴァ書房, 2022年の執筆者の一人として、ベトナムにおける漢文学について阮攸を中心に取り上げながら執筆した。これにより、ベトナムが、歴史的に見れば中国文化からの影響が強く、漢文学がひとつの権威として歴史的に20世紀に至るまで続いてきた事実を明示した。また、中国白話小説を元にしつつ、それを阮攸がベトナム語で独自の詩世界へと創造することで、中国が舞台で登場人物も中国人の小説が、ベトナムではそれがあたかもベトナム独自の文学作品であるかのように読まれていることを明らかにし、また、阮攸は、国や貴賤の区別とは関係なく、詩人としての強い感性から屈原や中国の貧者たちにも共感を寄せていることも示した。 その他、阮攸の仏教思想に関して優れた考察を行ったファム・コン・ティエンについて、なぜ彼が西洋近代を批判したのか、西洋近代にはない仏教思想の可能性とは何かについて、英語で研究発表を行った。これは阮攸を直接論じたものではないが、阮攸の思想にも強く表れている仏教思想の考察へとつなげられる問題系であると考えている。
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