研究課題/領域番号 |
20K00518
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
渋谷 豊 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (70386580)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 吉江喬松 / 日仏比較文学 |
研究実績の概要 |
本研究は一つのモデルケースとして吉江喬松の仕事に着目しつつ、日本において自然(地球およびその主要な構成要素である海洋や山岳など)がどのように文学的に表象されてきたかを明らかにしようとするものである。その際、国際的視座に立ち、比較文学的観点(特に日本とフランスを主たる対象にするそれ)から、文学、学問、芸術の領域における国境を越えたダイナミックな往還運動に注目する。 1910年代にフランスに渡り、パリおよびグルノーブルで勉強・研究を行った吉江喬松は、本場でフランス古典劇や最新の批評理論など、いわばフランス文学の「王道」と呼ぶべきものを学ぶと同時に、フランス文学の「周辺」に位置づけられる様々な運動にも旺盛な興味を示していた。すなわち、フェリブリージュ運動(ミストラルなどにより推進された、プロヴァンス地方の言語と文化への関心を高めるための運動)、民衆劇運動(特にロマン・ロランによって提唱されたそれ)、セルビアの民衆詩の継承の動き(吉江喬松はグルノーブル滞在中に第一次大戦の戦禍を逃れてフランスに流れてきたセルビア人と接触を持っていた)などに敏感に反応していたのである。 本年度はこうした「周辺」的文学運動に対する吉江喬松の理解と関心について、実証的な調査を行い、データを発掘しつつ、考察を行った。その結果、留学中の関心が帰国後に農民文学への関心へと深まり、それが独自の自然観・文学観を胚胎する土壌になっていることが徐々に明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はもともとは吉江喬松を個別に研究するだけではなく、この文学者を一つの定点として、日仏の近代文学における自然の諸表象を整理することを目指していた。そのためフランスに赴き、特にフランス国立図書館で資料を収集・分析することを計画していた。だが、昨年度に引き続き今年度も感染症の流行などのためにそれを実現することができなかった。そのため、研究が順調に進展しているとは言えない。ただし、(フランスよりも)日本の文学により比重を置くことにより、困難を解消しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
すでに吉江喬松という文学者の「個別研究」という色合いが濃くなることは予想できていたが、その傾向がさらに強まりつつある。ただし、当初の研究計画を大きく変える必要は認められない。そのため、予定通り東京(国立国会図書館、早稲田大学中央図書館など)およびパリ(フランス国立図書館、パリ第七大学図書館など)に赴き、比較文学的観点から実証的な調査・分析を進める。ただし、もしそれが困難な状況があれば、可能な範囲で資料収集を続けつつも、テーマ批評的手法による精緻なテキスト分析によりいっそう力を注ぎ、解釈学的な成果を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)当初計画では令和4年度に海外出張を実施予定であったが、研究の進捗状況により、令和5年度に実施することとしたため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度使用額は、令和5年度請求額と合わせて主に外国旅費として使用する計画である。
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