戦後日本のアヴァンギャルド芸術運動において、文学・映画・戯曲等のジャンルを横断した実践がどのように結実したか、その実態と意義の一部を新たに解明することができた。草月会資料室などでの調査に基づき、『フィルム・モザイク』、『いけばな』、『爆走』、『1日240時間』、『けものたちは故郷をめざす』、『赤い繭』といった作品と、各作品の制作に関わった安部公房、勅使河原宏、勅使河原蒼風、安岡章太郎ら芸術家に関する論考を発表した。いずれもアダプテーションや協働の観点を重視し、ジャンルの枠を超えた間テクスト性を読み取って分析した。これらの論考は、主に日本文学史、映画史、日本美術史、文学と映画の比較研究といった学術領域に新たな知見と一定のインパクトをもたらしたはずである。 また、ドキュメンタリー映画『爆走』については、一般財団法人草月会の許諾を得てデジタル化を実現した。『爆走』と、以前に科研費の助成を得てデジタル化した『1日240時間』は、大学での学術イベントのほか、地域の映画館や、国際映画祭でも上映し、あわせて解説や講演も行った。こうした企画は、学術的貢献にとどまらず、一般の映画ファンにも日本映画の魅力を訴える社会的意義があったはずである。 研究成果は口頭発表のほか、学会誌や学術書に論文等の形で発表した。特に、編著『フィルムメーカーズ22勅使河原宏』と、エジンバラ大学出版から刊行予定の論文集ReFocusには、四年間で行った研究成果の多くを盛り込んでおり、勅使河原宏監督に関する研究を国内外に広く発信するものである。
|