研究課題/領域番号 |
20K00520
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
真鍋 晶子 滋賀大学, 経済学系, 教授 (80283547)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | W.B. イェイツ / エズラ・パウンド / 能狂言 / アイルランド / 詩学 / 笑い / ラフカディオ・ハーン |
研究実績の概要 |
本研究において以下2点の目的を立て検証してきた。1)狂言の「笑い」と能の「鎮魂性」の双方が、西洋モダニズム演劇・詩を牽引したW.B.イェイツとエズラ・パウンドの作品に如何に昇華され、現れているかを、イェイツのtragic joy、パウンドのparadiso terrestreをキーワードに見極める。2)上演が難しいと言われるイェイツの劇、既存研究がほぼ存在しないパウンドの「狂言」を能楽として公演する可能性を探る。そのなかで悲劇(tragedy)、喜劇(comedy)、悲喜劇(tragi-comedy)という既存のジャンルの境界、そして西洋と日本という差異・境界を超えた新たな演劇を生み出した両者の文学世界のもつ現代的意義および普遍性を検証。 また、正式に能楽の手ほどきを受けていないイェイツとパウンドが、その真髄を掴み創作に生かしたことをCertain Noble Plays of Japan やClassic Noh Theatre of Japan などのその能理論、またその能の英訳を精査する。同時に、原作の能の公演に接し、さらに能楽師の意見を聴取することで、イェイツ、パウンドの能学理解と彼らが能楽へ新境地を加えていることも見た。 そして研究成果を、国内外の研究書・学術誌に掲載、国内外の学会・研究会・講演会で口頭発表することで、周知をはかった。 能楽師(シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方)、俳優など上演関係者と直接、演技や上演にかかる問題について議論、また、実演の機会に接すると同時に将来の公演計画もたてた。これは文学研究を実体化する独自の強みであり、また、演劇・詩の研究を実演という創造活動に直結させていることの証左である。 イェイツ、パウンドを中心に研究してきたが、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、アーネスト・ヘミングウェイも本研究に関わる重要な文学者として扱っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は着実に進み、国内外で成果を発表してきている。2022年度はオックスフォード大学出版局(英国)、コーク大学出版局(アイルランド)から出版された学術書に論文が掲載され、また国内外の学会・講演会などで8件の口頭発表を行った。 既存の演劇範疇の境界、西洋・日本の境界を共に超えた独特の普遍的境地がイェイツ、パウンド、さらにラフカディオ・ハーンの作品に如何に展開されているのかを追求するなかで、新たな研究の展開に繋がるテーマ(作品に扱われる周縁者、特に盲人の扱い方、またそれと神話的英雄との関係)も見出すことになり、本研究の継続・新展開も見出すこととなった。同時に、能楽を中心とする実際の舞台公演にも深く関わり、能楽師の聞き取りを続けた。特にイェイツが狂言として書いた作品『猫と月』の京都の狂言の名家茂山千五郎家による新たな6公演に同行し、狂言師と協議することで、作品の舞台化に直結する演出・解釈に寄与すると同時に、そのことにより、本研究へのアプローチに新たな視点を導入することができた。 ただし、コロナ禍が継続したため、未だ海外出張は困難で、国際学会はオンラインで参加、また、海外での調査・資料収集はできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
「悲劇的喜びtragic joy(イェイツ)」、「(悲劇に満ちた)現世の楽園paradiso terrestre(パウンド)」をキーワードに研究するうちに、両者の「聖なるもの・聖性」「俗性」および「祈り」の観念を、本研究および本研究に至る研究の基軸にある「笑い」を通して見極めることで二人の作品と能楽を繋ぐ根本に触れるとの考えに至った。二人にとっての聖性を、(アイルランド)神話における英雄、キリスト、民間伝承における妖精や異界のものに、聖者、また社会の周縁部に追いやられる人々(特に、盲人など身体に不具がある者たち)の作品内での描かれ方に見極める。神話は能、民間伝承は狂言の原理に通じ、聖者・周縁者は能狂言に重要な働きをする。能の中で、『景清』『蝉丸』のように英雄や高貴な出自の者が没落し社会の周縁に追われている演目(身体的欠陥も含まれる)にパウンドもイェイツも着目する。また、狂言のなかで、身体的欠陥のある無名の周縁者が扱われる「座頭もの・片輪もの」にイェイツは出逢い『猫と月』を産んだ。 悲劇的・喜劇的に拘らずイェイツ、パウンドの作品の持つ様々な「笑い」を、そこに内包される「俗性」「聖性」「聖なるもの」と人間との接点となる「祈り」の接点で切り込み、その意味を見極めることを本研究の次の段階で行いたい。 これらの研究成果を国内外で出版される研究書・学術誌に投稿し、また国内外の学会・研究会・講演会で発表する。 さらに、能楽師(シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方)、俳優などと演技や上演にかかる問題について議論し、実演に関わり、イェイツの劇、パウンドの「狂言」を能楽として公演する可能性を検討し、実現する。これは文学研究を実体化させる強みを持ち、また、文学研究を実演という創造活動に直結させるものである。また、新しいアプローチとして能楽と他の伝統芸能の関わりも研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が続き、海外出張ができなかったため、国際学会参加はオンラインになり、資料収集にも出向けなかった。2023年度は、国際学会参加(エディンバラ、ストックホルム)、および資料収集を計画している。また国内の学会参加もオンラインではなく、対面が増える予定である。また、能楽研究のため、公演にも多く接すると同時に、能楽師の聞き取り調査を続ける。
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