研究課題/領域番号 |
20K00525
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
堀 まどか 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (20586341)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 佐々木指月 / 海外布教 / 禅仏教 / 越境 / 移民 / 文芸芸術 / 神秘主義 / モダニズム |
研究実績の概要 |
禅仏教のアメリカ布教者・佐々木指月の活動と表現を調べるために、それ関する刊行書籍、雑誌に寄稿した文献などをひろく調査し入手した。またその周辺の滞米経験者たちの活動や、執筆状況、交友関係を精査するための基礎的土台を作った。 宗教学研究のなかでは、欧米での仏教や禅の流行や国際ネットワーク、ハワイ移民と仏教布教の実態を解明に関する研究、また神智学や禅の布教者として最も有名で重要な鈴木大拙に関する研究が進みつつあるが、文学文芸・美術の移民地研究や日本文学研究とは切り離れているため、それら個別の知見を重ね共有するような研究方法や協力体系をつくるための整備をおこなった。 佐々木指月がニューヨーク禅堂を開く前段階の背景を調査するために、まず村野孝謙によるアメリカ仏教布教の現状に関する文献を、戦前戦後に出された両面から調査して、とくに文学、翻訳、美術の面で、日本の仏教がどのようにアメリカの現地で捉えられているのかを検討した。いくつかの専門分野からの知見を共有するため、勉強会や研究会に積極的に参加し、学会発表をおこなった。 同時代の欧米人がみていた東洋的宗教(仏教や禅、そしてヨガなどの身体を含む哲学など)を検討するために、その20世紀転換期の渡米者を調べ(1893年に渡米して詩人となる野口米次郎や、その後に野口の成功を追って渡米した若い日本人(木村秀雄や木村駒子、菅野衣川ら)、また東洋思想や神秘思想に触れて発信したアメリカ人(初期ヨガ導師や詩人エドウィン・マーカムら)について調査した。 その成果については、佐々木指月の今後の研究に繋げる意図で、その前段階となる周辺事情の調査結果として『野口米次郎と「神秘」なる日本』刊行をした。この同時代の神秘主義思想や東洋への関心が、社会改良論的理念や社会主義理念とも抵触しつつ、日米の思想面やモダニズム理論面に作用を及ぼすことを問題提起したもの。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年8月に計画していた、カリフォルニア・バークレー大学バンクロフト図書館、およびオークランド市立図書館での資料調査や、参加予定であった国際学会への参加は、世界的なコロナ禍のために、実施できなかった。計画していた国内外の現地調査はできなかった。 ただし、オークランド市立図書館に所蔵している資料のとくに疑問をもっていた1点の写真について、国内から問い合わせを行ったり、オンラインで調査できるものについては、積極的に資料獲得に挑戦した。またZOOMでの国内外の研究会や勉強会を積極的に利用し、研究者同士の研究協力体制の構築につとめた。出来なかったことも少なくはないが、国内でZOOMによる学会発表をおこなったり、勉強会を行ったりしたことは、厳しい制限や停滞を強いられたコロナ禍での、着実な成果であると感じているため、「おおむね順調に進展している」と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
まだコロナ禍が続いている段階のため、海外調査が、今後いつからどの程度可能になるのか不明である。だが、現在までに入手できている資料、また指月の弟子たちや友人らに関する資料などを、分析しておくことを中心に進めておく予定である。また、国内で入手できる文学文芸についてのもの、詩や散文に関する日本語資料を中心にして、さらに調査を進めていく予定である。 今年度に模索した文学研究や宗教学専門の研究者たちとの連携協力をさらにおし強めて、研究を発表しながら、本研究の意義と成果を発信し、研究をふかめて行く予定である。具体的にいうと、日本内における文献と同時代文壇人の書簡類の調査。日本の詩雑誌や民衆詩派などの周辺で執筆した境界者や神秘主義者を中心に、20世紀転換期から大正期の日米の文芸文化ネットワークと人脈の実態を調査を、今後の研究の方法として考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定していた旅費・人件費を使用せず、資料の購入や研究調査や研究協力のための基礎的物品を購入に費用を充てた。国外から注文していた図書資料が届かず、残金が出た。
|