研究課題/領域番号 |
20K00530
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
張 欣 法政大学, 経済学部, 教授 (40424767)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ディアスポラ |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究はディアスポラの張愛玲を中心に進めた。 二十世紀を通じて、世界中の人々の移動は頻繁かつ大規模なものとなった。 複数の場所を往還する人もいれば、ディアスポラ(Diaspora、離散)の運命を辿った人もいる。 中国語圏における代表的な事例は、十五年戦争および続く国共内戦、挙げ句に1949年の大離散が挙げられる。測りしれない傷が今も人々の心を痛め、文学者に書かねばならない衝動を与え続けている。中国語圏の文学を考える際、ディアスポラは大きなテーマとなり、その国境を含めさまざまな境界を越えてしまうようなスケールおよびその多岐にわたる解釈の可能性が研究者を惹きつけている。張愛玲研究が盛んになっているが、その多くが輝かしい上海時代の創作に注目し、ディアスポラの視点で張愛玲の作品を取り上げた研究が少なくて深みも足りない。一昨年上梓した拙著『越境・離散・女性――境にさまよう中国語圏文学』ではディアスポラの視点で張愛玲の作品を論じている。昨年度はそれを踏まえて、南カリフォルニア大学やメリーランド大学等に保存されている張愛玲関連資料を調べ、ディアスポラの視点で張愛玲研究を続ける予定だった。コロナ禍で海外出張ができない中、関連する図書や資料を調べ、購入し、新たに張愛玲論を執筆した(「四度転身」『書城』、2020年12月)。また、日本華文女性作家協会にて「張愛玲の四度転身」というテーマで講演した(11月28日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渡米後の張愛玲が1960年代末までずっと英語で創作し続けたが,この世を去るまでThe Rouge of the Northなど主な英語作品はいずれもアメリカで出版できなかった。 1970年代に入り, 張愛玲は英語での創作を諦め,中国語の世界に回帰し、心の拠り所である『紅楼夢』の研究にも多大な労力を傾けた。去年発表した「四度転身」(『書城』、2020年12月)は張愛玲が中国語と英語の間での四回の変換をまとめ、張愛玲の文学的ないし文化的アイデンティティを取り上げた。また、日本華文女性作家協会にて「張愛玲の四度転身」というテーマで講演した(11月28日)。 去年台北の皇冠出版社が『張愛玲往来書信集1、紙短情長』および『張愛玲往来書信集2、書不尽言』を出版し、その中の張愛玲と宋淇夫婦の三人の文通は張愛玲研究に新しい資料を提供した。ここ数年、台北聯経出版社は『夏志清夏済安書信集』を五冊出版した。同時代の五人の知識人の手紙を解読することにより、張愛玲研究の新しい可能性も見えてきた。いま関連論文を執筆中。
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今後の研究の推進方策 |
今後張愛玲研究を続けると同時に、李長声(1949-)ら知日作家の研究も続けたい。李長声は1980年代末日本に移住して以来、30年間日本文化に関する随筆等を書き続け、台湾、大陸、香港 ですでに百万字の著作を出版し、代表作には『浮世物語』や『東京湾閑話』、『東瀛百面相』、『日知漫録』などがある。李長声が書いた日本の歴史、風俗、文学、社会等に関するエッセイは中国語圏で大きな影響力があり、そのユーモラスな表現は多くの読者を魅了している。李長声の随筆は在日華人文学を新しい境地に導き、日中文化交流にも貢献している。2014年李長声の5冊の随筆叢書『長声閑話』は北京三聯書店より刊行され、それは三聯書店が初めて打ち出した一人の作家を対象にした個人作品集でもある。今後この周作人以来最も重要な知日派随筆家と評価される李長声の日本論を整理し、それを黄尊憲や周作人、それから李嘉、司馬桑敦、崔萬秋ら台湾知日派作家の系譜に入れて歴史的に捉えてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
使いきれなかった分、翌年度物品費として使用する予定です。
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